
今回のことば
「東証一部復帰を果たす決心で、片道の切符を買って、日本にきた。ようやくこの目標を果たすことができた。本当はいま社長を辞めたいが、個人のわがままでは決められない」(シャープ・戴正呉社長)
シャープが2017年12月7日、東京証券取引所市場第一部銘柄に指定された。
同社は2015年度通期連結決算で430億円の債務超過に陥り、2016年8月1日付けで、市場第一部から市場第二部へと指定替えになっていた。だが同年8月に鴻海精密工業が出資を完了し、鴻海ナンバー2の戴正呉氏を社長として送り込んで、鴻海傘下で再建を進めてきた。
戴社長は2016年8月21日に発表した経営基本方針において「経営幹部に期待すること」として、8つの項目を設定したことを明らかにし、そのひとつに「東証一部への早期復帰を共通目標として、業務を遂行すること」をあげ、東証一部復帰は戴社長にとっての最優先課題のひとつとしていた。
同社は2017年6月30日には市場第一部銘柄への指定申請をし、東証一部復帰への取り組みを具体化。「東証一部から二部に指定替えとなった企業が、再び一部に復帰したのは過去数10年間で1件だけである。加えて、指定替え後わずか1年4ヵ月でのスピード復帰は、過去に前例がない」(戴社長)という。
東証一部復帰にあわせて、東京証券取引所で開いた記者会見では「2016年8月に、シャープの東証一部復帰を果たすという強い決心をして、片道だけの飛行機の切符を買い、日本にきて、シャープの社長に就任した。『One Way Ticket』という歌と同じ気持ちだった」と、当時の心境を吐露した。
実際、鴻海傘下での回復ぶりには目を見張るものがある。
新卒採用は2.2倍、1人あたりの年間平均給与は1.17倍に
東証二部への指定替え時点となる2016年度上期決算では、売上高が9196億円であったものが、2017年度上期決算では1.21倍となる1兆1151億円に増加。当期純利益は、454億円の赤字から、347億円の黒字へと転換した。2017年度第2四半期の最終利益は、当初予想を大幅に上回り、リーマンショック以前の水準にまで回復したという。また、設備投資では、2016年度には274億円の実績であったものが、2017年度計画では732億円と2.67倍に拡大。同じく新卒採用は142人から312へと2.20倍に増え、1人あたりの年間平均給与は1.17倍に増加したという。
わずか1年で大きく変化したこれらの指標を示しながら、「シャープ復活の証といえる」と宣言。「私は日本人ではないが、多くの人が応援してくれたこと、全員一丸となってがんばってきた結果が、今日につながっている。シャープはもともと実力がある会社であり、金脈と同じだ。私は、金脈を掘る役割を行なってきた。これからも金脈を掘りたい」と語った。
戴社長が語る「シャープ復活」のバロメータは、これらの数字とともに、東証一部復帰というゴールによって証明されるのは確かだ。
戴社長は「これからのシャープには人材が重要であり、そこに投資をしていくには、一部復帰が大切であった。また次の100年のシャープを考えると、一部復帰は通過点である」とも語る。
東証一部復帰によって、社会から認められ、より強く社会的責任を担う会社となり、同時に、人材確保にも優位に働くことで、将来の成長につながるという好循環を生むことになる。
だが、戴社長は、東証一部復帰を自らの退任時期と考えていたようだ。

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