
今回のことば
「この7ヵ月間の自己採点は10点中6点。日本での取り組みは合格だが、海外は不合格」(シャープの戴正呉社長)
鴻海傘下での再建を進めているシャープが着実に復活の道筋を歩んでいる。2016年度業績見通しは、最終赤字ではあるが、営業黒字化、経常黒字化を達成する見込みであり、さらに第3四半期にはすでに最終黒字化を達成するなど、業績面での回復が著しい。
その舵取りを担っているのが、2016年8月13日に社長に就任した戴社長だ。鴻海の副総裁として、同社創業者の郭台銘氏を26年間サポート。鴻海ナンバー2である戴氏自らが乗り込んでシャープの経営再建に陣頭指揮を振い、鴻海流の改革によって成果をあげている。
黒字化は前倒しで進行
2016年4月2日に行った記者会見では、郭会長が、「2~4年で黒字化する」とコメントしたが、黒字化は前倒しで進んでいる。「8月13日の社長就任後、1ヵ月間でチェックを行なった。手を打てば、黒字化できると考えた」と戴社長は発言。契約の見直しなどによるコストダウン、鴻海とのシナジー効果などによって、改善の余地が大きいと判断した。実際、投資の削減で300億円、鴻海のシナジー効果を含む費用削減で370億円、和解金や事業譲渡などの一過性収益で183億円の効果をすでに生んでいる。
かつて日本に勤務した経験もある戴社長は、幹部や社員とのコミュニケーションはすべて日本語で行っている。
「私は、40年間に渡って日本の企業とビジネスをしてきた。シャープは日本の企業である。だから日本語を使う。日本語は難しいし、そんなにうまくはない。たまには失礼な言い方になるかもしれないが、社内をスピードアップさせるためにも、日本語の方が適している。北京語や英語で話しても、通訳を入れるとかえって思いが伝わらない」とする。
この7ヵ月間を振り返って、戴社長は、「10満点中6点」と厳しい自己評価を行う。「全体では合格点には達しているが、海外は不合格」と語る。
日本においてはシャープの幹部のモチベーションが高まったこと、内部統制がしっかりできたことをあげ、「業績や株価といった数字は気にしていない。社会が注目するため、数字は発表するが、私が取り組まなくてはならないのは、数字よりもシャープの経営と管理、内部統制」とし、業績の回復よりも、社内風土の改革に優先的に取り組んでいることを強調する。だが「気にしない」とする数字もしっかりとついてきている。
300万円以上の決裁は、すべて戴社長が行ない、約半年間で2000件もの決裁を行ったという。
「決裁案件の最初の2ヵ月の合格率は20%以下。いまでは、7~8割に合格率が高まっている」とし、投資に対する社員の意識が変わり始めていることを示す。「これが過去の経営との違いである」と戴社長は強調する。
海外展開は手付かず多し
一方で、不合格とする海外については、「まだまだ手つかずの部分が多い」とする。欧州では、スロバキアのUMCの株式を56.7%で取得し、子会社化。同社はシャープの経営不振にともないシャープブランドを供給する契約を結んでいたが、これを丸ごと買い取った格好だ。
「欧州では液晶テレビだけでなく、シャープブランドの様々な製品を出していく。2017年度に合格点への到達を目指す」とする。ASEANでは、2017年からラインアップを拡大し、開発投資を積極的に行う姿勢を見せる。
「ASEANで展開するには、製品ラインアップが足りないと考えている。中国・深センに商品開発センターを新設した。このインフラを生かして、ASEANはがんばりたい」。また、中国市場は、「シャープの赤字の元凶になっていた」と指摘。「中国市場に強い鴻海にサポートしてもらう。コンシューマ向け製品の製造、販売を鴻海に任せる」と、提携関係をベースに事業を拡大する考えだ。
そして、課題となっているのが米国だ。
米国市場では、シャープブランドのテレビはハイセンスがライセンス販売を行っており、「私は、いまはなにもできない」(戴社長)という状況だ。
だが戴社長は、「経営は難しいことにチャレンジするものである。ハイセンスとの話し合いもネゴシエーションが大切であり、チャンスがあれば生かしたい。がんばればできる。そうした気持ちを持っている」と、米国市場に自ら参入していく姿勢を強調する。
ハイセンスに対するライセンス供与も、シャープの経営不振に伴い、前経営陣が決定したものだ。米国では、新たな液晶パネル工場の建設計画も浮上しており、それを最大限生かすためにも、米国において自らシャープブランドの製品を販売できる体制の構築は急務だ。
シャープでは2018年度に1000万台の液晶テレビを出荷する計画であり、この達成にも自信をみせる。シャープは、2016年度第3四半期までの9ヵ月間累計での液晶テレビの出荷台数は353万台。年間でも500万台規模に留まっている。これを、2年後には1000万台にまで引き上げるという意欲的な目標だ。
戴社長は、「鴻海との連携で必ず達成できる」と断言。「有機ELは、耐久性などにも問題があると考えており、シャープのテレビ事業の中心は液晶テレビになる」としながら、「2018年度に1000万台の液晶テレビを出荷する計画を目標するためには、鴻海とのシナジーが重要である。日本だけでなく、中国やASEANへの展開を加速するなど、全世界にシャープブランドの液晶テレビを展開していく」と語る。
大胆な人事制度
戴社長が「不変の経営ポリシー」と位置づけるのが、「信賞必罰」の人事制度である。「成果をあげた人にしっかりと報い、優秀な人材や若手人材の活躍を後押しする仕組みへと改革する」と戴社長は語る。
今回明らかにした信賞必罰の人事制度のひとつが賞与である。2017年度の賞与は、年間4ヵ月分を原資とし、これを分配する形で業績貢献に応じて、最大8ヵ月、最低1ヵ月に割り振り、8倍もの格差をつける。
さらに特別な貢献が認められる社員には、社長特別賞を用意。3月24日には500人規模の社員に支給する。「1人あたりの金額は言えないが、1、2万円程度のレベルではない。もらってびっくりする金額」と、戴社長は語る。
さらに新入社員に対しても、やりがいがある仕事に挑戦する機会を与え、優秀者には半年後には、5万円もの大幅な給与引き上げを行なうことも明らかにした。
「頑張って成果を出せば、その分、必ず報われる会社と言われるようにしたい」と戴社長。日本の大手企業にはない鴻海流の人事制度で、社員にやる気を持たせる考えだ。戴社長は、「ここ2~3年のシャープは守りが多かったが、攻めの戦略へと転換する」とする一方、「本格的な業績回復は、まだまだこれからだとの認識を社員全員が持つ必要がある」と手綱を占める。
鴻海の傘下にはいって以降、人事制度や買収戦略など、大胆な施策が相次いでいるシャープだが、4点のマイナス点を埋めるためには、これまで以上の大胆な施策が相次ぎそうだ。

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