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「市場は誰が何といおうとオープンソースに流れています」─日本IBMに聞くLinuxビジネス成功の秘訣

2003年04月26日 00時00分更新

文● 編集部

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日本アイ・ビー・エム(株)は、2月24日に発表した連結決算に関するプレスリリースの中で、『IBM eServer xSeries』やメインフレームLinuxといった、Linux関連事業の売り上げが30%増加したと発表した。売り上げ増加の背景にあるものはなにか? 競合するサービスに対抗する戦略は? 市場のマーケティング戦略は? 日本IBMのLinux事業を担当する、同社理事でLinux事業部長の根塚眞太郎氏にインタビューを行なった。

日本IBM理事 Linux事業部長の根塚眞太郎氏日本IBM理事 Linux事業部長の根塚眞太郎氏

不景気になるとLinuxビジネスが儲かる?

[編集部] このインタビューのきっかけは、先日発表されたプレスリリースで、全体的な売り上げが落ちていながらも、Linux関連事業が30%増というお話があったことです。

そこで、Linux事業の対象となる市場セグメントのターゲッティング、市場規模、市場の成長性、加えて、オープンソースのビジネスモデルに対して、どのように取り組まれてきたのかをお聞きしたいと思います。
[根塚氏] おかげさまで昨年は非常に好調だったのですが、まずビジネスという視点から、好調だった背景には色々な理由があります。

1番大きな理由は、非常に経済環境が厳しい中で、いかにIT予算を下げるかということが、お客様にとって大きなテーマになるわけですが、その有力な方法の1つとしてLinuxがあったということです。これは必ずしもLinuxがOSとして安く、場合によっては無料だということではなく、本当に重要なことはマルチベンダーだということです。同じプラットフォームで一番安く、いいシステムを持ってくることが、はじめて可能になったわけです。

もう1つは、たとえば、UNIXマシンと比べて、Linuxは同じ機能を半分とか3分の1とか、場合によっては一桁下がったコストのIA系のハードウェアで利用できることです。ハードウェアの値段は結構馬鹿になりませんから、その部分で全体のコンピュータ予算が非常に下がるわけです。

大変皮肉な現象ですが、不景気になり、いかにしてTCO(Total Cost of Ownership)を下げるかということにお客様の目が向いたときに、Linuxが有効なツールとして出てきたわけです。一昨年と比べて、去年は景気が特に厳しかったわけですが、外的環境が変わると、お客様もコストを下げる方向に向くことになるわけです。

さらに、以前に比べていろいろな事例が出てきたということがあります。お客様がLinuxを導入するにあたって、「理屈としては分かるけれども、実績がないし不安だな」と思っていたのが、いろんな事例が出てきたため、ある程度安心感を持って導入できるようになったのではないかと思います。

それから、ほとんどのベンダーさんがなんらかの形で「Linuxをやる」と鮮明に言っています。IBMは2000年のはじめから取り組んでおりますが、ほかのベンダーさんでも、ミドルウェアなどのアプリケーションパッケージのLinux対応を進めていまして、たとえば有名なERPなどがLinuxの上で稼働し始めたという流れがあります。お客様がこのような流れをご覧になって「ああもういけるんだな」と思われたということもあるでしょう。そういったさまざまな要素の組み合わせが、私達の業績が伸びた大きな要因ではないかと思います。

Linux市場では実績が評価される

[編集部] Linuxをビジネスモデルとして考えた場合に、Linuxを使うことによって、もしかしたらほかの事業の首を絞めることになるかもしれないと考えることもできます。当然、Linux事業を行なうリスクと行なわないリスクを考えて、Linuxをやるほうががいいという決断をされていると思います。ほかの事業との兼ね合いについてはどのように考えているのですか。
[根塚氏] そうおっしゃる方がよくいるのです。つまり「ほかの分野だったらIBMがもっと大きなビジネスができるのに、Linuxをやることによって自分の手足を食べているのではないか」と言われることがあります。しかし、私達は必ずしもそうは思っていません。

まず、IBMの製品、サービスという話をする前に、市場はどう流れているか、あるいはお客様のニーズがどちらを向いているかということがあります。そのニーズを眺めれば、少なくともOSに関しては、流れはLinuxであるということは間違いないですし、そうであるならば、「自分たちの手足を食う」という議論の前に、Linuxの市場をどう押さえるかということが非常に重要だと思うのです。

ご存じのように、Linuxは誰でも参入できる、ある意味では参入障壁の非常に低いビジネスです。ですから、早く参入して実績を作り、お客様にIBMのほうを向いて頂くことが非常に重要です。私達は2000年のはじめからLinuxビジネスを始めているわけですが、その時に考えていたことは、お客様が実績を非常に重視されるであろうということと、もう1つは技術の流れですね。

インターネットが出始めたときに、特にビジネスに関わっている人たちは、あれはいってみれば“オタク”のおもちゃだと思っていた時代がありました。今ではそれが大きな間違いであったことが分かったわけです。Linuxも、もう少し前でしたら同じように見ていた方がいると思います。私達はいろいろな流れを見ていて、技術面からも投資に値すると思ったわけです。

今度は先ほどの「自分の市場を食う」という話とはちょっと違った議論ですが、ご存じのように私達はLinux自体(ディストリビューション)を提供していません。Linuxで動くハードウェアやソフトウェア、それからLinuxを使ったサービスが事業の3本柱です。仮にハードウェアで売り上げが下がったとしましょう。しかし結果として、お客様が求めているソリューションを私達が提供できればよいわけですから、ハードウェアに高機能のサービスをつけて、トータルでお客様が満足できるものをお届けすればいいわけです。私達はワンストップショッピングでソリューションをお届けしたいと思っています。ハードウェアからソリューションにシフトすることで、全体として売り上げをどんどん大きくしていくことができるわけです。Linuxでも従来と同じように、ハードウェアからサービスにビジネスが移っていますが、それによってビジネスが下がるということは決してありません。それが私達のビジネスモデルということです。

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