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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第35回

リクナビ内定辞退予測なぜ問題?

2019年08月12日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 就職情報サイト「リクナビ」を運営しているリクルートキャリアが、7983人の同意を得ずに、内定を辞退する確率を予測し企業に販売していた。

 リクルートキャリアは2019年8月5日にサービスの廃止を発表。個人情報保護委員会は、個人情報保護法に違反する疑いもあるとみて、同社の関係者から事情を聞くなど調査を始めた。

●「スコア」ビジネスに影落とす

 同社が販売していたのは、リクナビの閲覧履歴を基に、就活生が内定を辞退する確率を予測した分析スコアだ。

 ウェブ上に記録された行動、買い物などのデータを基に、個人にスコアをつけるサービスは日本国内でも、さまざまな分野で広がりつつある。

 政府は、一定のルールのもとでデータ自由流通に流通させる概念「DFFT」(Data Free Flow with Trust)を提唱している。

 しかし、データの活用を進める大手企業を代表する存在であるリクルートグループが、学生の将来に影響しうる情報を無断で販売していた事実は、極めて深刻だ。

●内定辞退防ぐサービスがきっかけ

 リクルートキャリアの発表によれば、同社は内定辞退の確率を予測するサービスを2018年3月に始めた。

 背景には、いったん採用が内定したものの、辞退する学生が増加していることから、メールや電話で、採用担当者らが内定者にフォローをしている現状がある。

 内定辞退の確率が高い学生であれば、こまめにフォローして、辞退を防ぐ――。企業側のこうしたニーズに答えるサービスだった。

 リクルートキャリアは、サービスの停止までに、学生が知らないうちに38社に対して分析スコアを提供していた。

 「テクノロジーを駆使し、人材マッチング事業全体でイノベーションを創出」とするリクルートグループ全体の方針にも重なる。

 新卒の学生を採用する企業側の立場で考えてみると、「辞退率が高い学生には、内定を出さなければいい」ということになるが、一応、リクルートキャリア側は「合否の判定には当該データを活用しない」との同意書を取っていたという。

●同意確認「一部の画面」で反映されず

 リクナビを利用する際に、ユーザーは、プライバシーポリシーに同意するかどうかを確認を求められる。プライバシーポリシーには、本人の同意なく個人情報を第三者に提供しないと明記されている。

 個人情報保護委員会が公開している「個人情報保護法ガイドライン」でも、サイトに表示されるチェックボックスへのチェックや、ボタンのクリックでも、本人の同意を得たとみなすことができるという。

 リクナビでも複数の画面で同意を求める設計だったが、リクルートキャリアは「一部の画面においてその反映ができていなかった」としている。

●業界標準になっていることも問題

 問題は、リクナビを含む数社のサイトが新卒採用のデファクト・スタンダードになっている点だ。

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