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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第87回

銀行振込手数料、40年ぶりの値下げなるか

2020年08月10日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 銀行の振込手数料が安くなるかもしれない。ただ、どのくらい時間がかかるかは今のところ不明だ。

 三菱UFJ、三井住友、みずほを含む大手銀行5行が2020年8月6日、新しい決済インフラの構築を検討すると発表した。

 振込手数料のベースとなる銀行間の送金手数料は、40年以上にわたって同じ金額が維持され続けてきた。

 この銀行間の手数料が、振込手数料が高止まりしている元凶だと政府からも指摘されているが、今回の発表に名を連ねた5行は、この仕組みに切り込むというよりも、別の仕組みを使う考えのようだ。

●全銀ネットはレガシーシステムの象徴?

 QR決済や仮想通貨の登場以降、効率の悪いレガシーシステムの象徴とディスられ続けてきたのが、全銀ネットだ。

 全銀ネットは、銀行や信用金庫、農協などをつないだネットワークのことだ。現在、日本国内のほとんどの金融期間がこのネットワークに参加している。

 仮想通貨の価格が急上昇を続けていた3年ほど前、若い起業家やエンジニアから、何度も同じ話を聴いた。

 「手数料の高い全銀ネットや、日銀を中心とする今のシステムなんて、仮想通貨が普及すればいずれはいらなくなる」

 公正取引委員会は4月にQR決済に関する実態調査の報告書を公表した。報告書は、全銀ネットの問題点を指摘している。

 この報告書によれば、銀行間の手数料は3万円未満の振り込みで117円、3万円以上で162円(いずれも税抜)とされている。この手数料水準は、遅くとも1979年2月以降、同じ金額が維持され、手数料改定に関する協議が行なわれた事実も確認できなかったという。

●不透明さが高額の手数料の元凶か

 この銀行間の手数料が、利用者が支払う振込手数料のベースにもなっている。三菱UFJ銀行のウェブサイトによれば、3万円未満を他行あてに振り込む場合、インターネットバンキングで220円、銀行の窓口では660円かかる。

 公取委の報告書は、振込手数料の構造が開示されずにいたことが、長い間改善がなされなかった要因のひとつであると指摘し、「手数料の水準が維持されている現状の是正」を求めた。

 そもそも公取委が実態調査に着手した背景には、手数料をめぐるQR決済事業者側の銀行に対する強い不満もあったようだ。

 QRコードを含めキャッシュレス決済が拡大したことで、消費者の行動は変化した。

 ある日の自分自身の行動を振り返ってみると、朝はコンビニで120円の水を買い、昼食は居酒屋で780円の定食を食べたが、いずれもQR決済で支払っている。

 いままでは週に1、2回ほど銀行のATMで現金を引き出し、コンビニやランチの代金を支払っていたが、キャッシュレスの登場で、細かく何度も決済を繰り返す形へと変化した。

 決済のあり方が大きく変わる中で、7月17日に政府が公表した「成長戦略実行計画」は、「振込手数料の負担がキャッシュレス決済普及の障害になっている」と指摘。合理的な水準への手数料の引き下げを実施すると明記した。

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