このところ次世代の電池に関するニュースを頻繁に目にするようになった。
2024年11月21日にはホンダが、栃木県さくら市にある全固体電池のパイロットラインを公開した。パイロットラインは研究段階の製品の量産に向けて、生産ラインを再現し、生産技術の確立や生産コストなどの検証をするものだ。ホンダは、2020年代後半に全固体電池の量産開始を目指している。21日のロイターは、ホンダは全固体電池を電気自動車に搭載することで、現行のリチウムイオン電池と比べて、航続距離を2倍に伸ばし、コストも25%低減することを目指していると報じている。
経済産業省が2025年度の予算に関する要求をまとめた「概算要求」でも、「次世代電池の実用化に向けての必要な支援を行う」という項目が重点政策のひとつに掲げられている。具体的な予算としては、全固体畜電池の設備投資に対する補助金等を含む「蓄電池の製造サプライチェーン強靭化支援」に1778億円を計上した。
次世代電池の開発は近年、国際競争が激化している。次世代電池の開発競争で日本はこれまで、官民をあげて全固体電池で優位を確保する政策を進めてきた。しかし、中国が実用化を進めている半固体電池などの存在を根拠に、全固体電池に対する厳しい見方も存在する。
全固体で「日本企業は疲弊しかねない」
蓄電池について、日本の現在地とこれからを理解するうえで、経済産業省が2022年8月に公表した「蓄電池産業戦略」を一読しておきたい。この政策文書は蓄電池を「電化社会・デジタル社会において国民生活・経済活動が依拠する重要物資」と位置づけている。
現在、電気自動車やスマートフォン、ノートPCなどに搭載されているのは、「液体リチウムイオン電池」が主流だ。電流が電池の中を流れる「電解質」に液体が用いられている。これに対して、「全固体」は、電解質がすべて固体で、液体よりも航続距離が2倍程度と長く、充電時間は3分の1程度に短縮される。一方で、バッテリーとしては経年劣化が早く進み、寿命が短く、量産体制の確立に課題があると指摘されている。
こうした背景もあり、蓄電池産業戦略は「このままでは全固体電池の実用化に至る前に、日本企業は疲弊し、市場から撤退する可能性。車載用のみならず定置用蓄電池までも海外に頼らざるを得ない状況になる流れ」があると指摘し、一定の政策転換を図っている。
そのうえで、「全固体電池など次世代電池を世界に先駆けて実用化するために技術開発を加速し、次世代電池市場を着実に獲得」すると述べている。
「薄れゆく全固体への期待」と米メディアが指摘
米国の経済メディアCNBCは10月16日、全固体電池での優位を目指す日本政府と自動車メーカーの取り組みに対して、「薄れゆく全固体電池への期待 自動車大手は代替案を検討」と、厳しい見方の記事を掲載した。
この記事は、全固体電池の寿命が短く、充電中に電池が膨張するなどの技術的な課題を指摘し、代替として液体と全固体の特徴を兼ね備える「半固体電池」の採用が進むとの見方を示している。
半固体電池は、電解質としてゲルや樹脂などの物質を使う。全固体電池と比べて量産化が簡単ではあるが、性能は全固体に劣るとみられている。CNBCは、半固体電池の開発は「主に中国企業が主導している」と指摘している。中国の電気自動車メーカーNioは、すでに半固体電池の電気自動車を商品化しており、航続距離は1000kmに達するとされる。
電気自動車向けではないが、日本でも、京セラが半固体電池の量産化に成功している。同社のウェブサイトによれば、市販している半固体電池は家庭用の太陽光発電システムの蓄電池だ。電解液を粘土状にすることで、発火のリスクを低減させ、従来の蓄電池と比べて1.5倍の寿命を実現したとしている。
ゲームチェンジなるか
11月19日に開かれた、「蓄電池産業戦略推進会議」に経産省が提出した資料によれば、日本は電気自動車で大幅に出遅れている。企業別の電気自動車のシェアをみると、現時点では中国系企業が大きくリードしている。
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