事業会社とオープンイノベーション支援事業者との連携 ~事業創出における課題と成功にむけた心がけとは~
「大企業と支援事業者が語る。支援事業者とともに挑戦する事業創出」レポート
ASCII STARTUPは、2021年3月19日(金)、先端テクノロジーが集まるオールジャンルのテクノロジーイベント「JAPAN INNOVATION DAY 2021 by ASCII STARTUP」をオンライン中継で開催。大企業は自社のみでの新規事業創出が難しくなっており、他社や大学機関との連携が不可欠だ。協業をスムーズに進めるために、企業における事業創出の加速化を支援する事業者(以下、「支援事業者」という)のサービスを活用する企業が増えている。セッション「大企業と支援事業者が語る。支援事業者とともに挑戦する事業創出」では、行政、大企業、支援事業者のそれぞれの立場から、他社との協業における課題、公的機関と支援事業者に求められる役割についてディスカッションした。
登壇者は、経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課長 瀧島 勇樹氏、小林製薬株式会社 中央研究所 研究推進部 社外連携グループグループ長 羽山 友治氏、株式会社ゼロワンブースター取締役 渡辺 朗氏、モデレーターとしてPwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー 鐘ヶ江 靖史氏が参加した。
企業におけるイノベーション創出の現状と課題
市場環境の変化が加速するなか、企業はビジネスモデルの転換や、継続的な新事業創出の必要性が高まっている。大企業の約9割がイノベーション創出に向けた他社との連携活動に取り組んでいるが、事業化まで進む例はまだ少ない。また、イノベーション創出に向けて支援事業者を活用する事業者は4割に上る。本セッションでは、新事業創出を実践する企業、支援事業者、政策支援の立場から、新規事業創出に向けた悩み、連携の課題を共有し、解決策を議論した。
悩みに対する打ち手の事例
鐘ヶ江氏(以下、敬称略):イノベーション創出を主導する経済産業省としては、どのような課題を抱えていますか?
瀧島氏(以下、敬称略):経産省も政府の組織として大企業と似た部分があります。年間の予算と何をするかがすべて決まっており、全国同じメニューで粛々とやるようにデザインされています。そのため、ニーズとの乖離が生じがちで、よりきめ細かく柔軟に対応するためには外部の方との連携が非常に大事だと感じています。東京都のコロナ対策の例では、社団法人コード・フォー・ジャパンと連携して、感染情報をオープンデータとして都民に公開するなど、外部とうまくコラボすることで評価されています。
鐘ヶ江:羽山さんは大企業でイノベーションを主導される立場として、新規事業創出の際に突き当たる悩みとして具体的にどのようなものがありますか。
羽山氏(以下、敬称略):イノベーション活動には、オープンイノベーション活動や社内の新規事業開発などいろいろな形がありますが、それぞれの活動を自社単独でうまくやれる企業は、国内海外問わず、ほぼないと認識しています。そのため、外部の支援事業者を活用することになりますが、最近は支援事業者の種類や数が非常に増えています。その中から自社のイノベーション活動に合った事業者やサービスをどのように使い分ければいいのかが、イノベーション活動に共通する悩みではないでしょうか。
鐘ヶ江:ゼロワンブースターさんは支援する側のお立場として、企業からどのような悩みをよく聞かれますか?
渡辺氏(以下、敬称略):各企業において、新しい事業を作っていくのは大命題です。その課題に対するアプローチの形によって、どの事業者を選ぶか、どのように付き合うかが決まってきます。支援事業者には、それぞれ強みと特色がありますが、外から見るとそれが見えづらいのだと思います。コンサルティング事業の市場が形成されていったプロセスと同様に、最初は経営戦略の支援が主流でしたが、徐々にシステムや人事等、個別の領域に特化した事業者が派生して生まれていき、現在は外から見て強みがわかりやすくなっています。イノベーション支援の業界もそのような道筋をたどっていくのでしょう。
我々の場合、大きくはスタートアップと協業するコーポレートアクセラレーターと、自社内で事業創出するイントラプレナーアクセラレーターの2つがメインのプログラムとしてあり、企業がどちらを目指すかによってカスタマイズしながら提案をしています。
瀧島:大企業の側では、文化の違う組織と一緒にやっていける体制を整えておくことが大事です。スタートアップと組む場合、何をやりたいのか目的を明確にして、かけられる時間やリソースといったお互いのギャップを埋めていくことが課題だと感じています。
鐘ヶ江:企業からの相談として、そもそもビジョンをどう作っていくのかわからない、というスタートからの悩みもあるのでしょうか。
渡辺:ほとんどの企業は、顕在化した課題をどう解決したいか、ゴールをもってお話しされることが多いです。ただ、時間が経つに従って、そのゴールが変わっていくことが悩ましい。最初は事業を作ることにフォーカスしていたのが、そのうち教育面を大事にしたい、人材を維持したい、など目的が複層化してぼやけてしまうことがあります。時間の経過によって変わっていくのは当然ですが、当初の目的に立ち返りながら、アジャストしていく作業が大事です。
大企業・支援事業者が互いに期待する役割
鐘ヶ江:小林製薬では、個別の悩みを解決するための取り組みの事例があれば教えていただけますか。
羽山:まず前提として、案件ごとに(適切な支援事業者が提供する)サービスを選択する能力を、我々のような事業会社のイノベーション担当者がコアスキルとして育てていかなくてはいけないという認識を持っています。ただ、ネットで検索しても、各支援事業者はサービスの料金など詳細を公開しておらず、各サービスを実際に利用して試行錯誤しなくてはわからないのが現状です。事業会社同士の横のつながりで情報を供するのが今できる限りのアクションです。
また、支援事業者によっては、業務を丸ごと受けてくれるところもありますが、それでは社内にノウハウが残らないので、我々自身が主体的に関わりながら、ノウハウを学ぶ姿勢で取り組みを行なっています。
渡辺:支援事業者はカンファレンスやイベントでサービスの特徴をアピールしていますが、基本的にいいことを中心に話しますから、羽山さんのおっしゃるように、事業会社側に知見やノウハウがあるのが望ましいと思います。本当の強みと弱みといった特徴は、実際に面談をしながら、探っていただければ。厳しい目で見てもらうことで、我々も成長していけるのが理想ですね。
鐘ヶ江:経産省として、大企業と支援事業者のマッチングの取り組みはありますか?
瀧島:NEDOを中心にJOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)という場を利用して、大企業とスタートアップが出会えるオープンイノベーションの場を提供していますし、全国のスタートアップ拠点でもさまざまなイベントを開催しています。こうした場を事業会社と支援事業者との交流にも活用してもらえれば。
鐘ヶ江:羽山さん、事業会社として、こうした場があればいいな、という提案はありますか?
羽山:支援事業者の方々には、ほかの支援事業者にない強みを磨き、わかりやすく説明してくれるとありがたいですね。さらに支援事業者間で連携して、もし他の支援事業者のサービスのほうがマッチしているなら、囲い込まずに他者を紹介してくれるようになると助かります。
鐘ヶ江:渡辺さん、支援事業者の連携はありうるのでしょうか?
渡辺:同じサービスは難しいですが、役割の異なる、縦の連携はできそうです。オープンイノベーションの土壌を作るには、各社が囲い込み過ぎるのは健全じゃないので、できる範囲で連携できたらいいと思います。
羽山:公的機関への要望としては、支援事業者の検索ツールを公的機関が提供してくれるといいですね。米国では、ハーバード大学が課題の種類や予算を入力すると、支援事業者がリストアップされるツールが無料公開されています。現在は、資金力が豊富な大企業だけが支援事業者をたくさん使って試行錯誤していますが、資金力がない会社でも支援事業者を活用できるような仕組みが必要。そのギャップを埋めるのは公的機関だと考えています。
鐘ヶ江:政府として検索ツールやマップなどの情報提供する計画はありますか?
瀧島:オープンイノベーション政策をすべて国がやるとパンクしてしまいますし、大企業から中堅、中小企業までオープンイノベーションにも複数のマーケットがあります。政府として割けるリソースは限られているので、どのような形のツールが使いやすいか、どのようにマッピングするとうまく動くのか、いろいろな方法を検討していく必要があります。JVCA、VCの業界団体ではVCのパフォーマンスを見える化する活動をしていますし、業界団体の方々とも連携していければ面白いものが作れるのではないでしょうか。
鐘ヶ江:最後に、このセッションを通じて、新たな気付きや今後やりたいことがあれば。
渡辺:クライアントから見たときの支援事業者のわかりにくさ、悩みは今回初めて深く聞くことができました。我々も選んでもらえる努力を日々続けていきつつ、協業と横のつながりを持ち、もっと透明性を出していかなくてはいけないことを強く感じました。
羽山:オープンイノベーションを(うまく)活用していくためには支援事業者のサービスを使わなくてはいけないと感じています。支援事業者の方をパートナーとして我々の考えをぶつけて、信頼関係を築いていく必要があると感じました。こうした議論ができる場がもっと増えていくといいと思います。
瀧島:大企業、スタートアップ、支援事業者、それぞれの視点が異なり、お互いの情報がわかると、より信頼関係を気付きやすい。NEDOをひとつのプラットフォームとして情報共有や交流の場として育てていければ思います。