メルマガはこちらから

PAGE
TOP

オープンイノベーションの基本事項:「そこに効果はあるのか?」と言われたら

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

1 2

◆本連載が書籍化しました!【2024年3月1日発売】

■Amazon.co.jpで購入
 

◆同日開催のカンファレンスにて、オープンイノベーション関連セッション開催!
JAPAN INNOVATION DAY 2024 【2024年3月1日・ベルサール汐留で開催】
セッション名「2024年、日本のオープンイノベーションの現在地を探る」(11:30-12:00)


 

イノベーションについての議論を押さえたうえで、オープンイノベーションの定義を確認する。続いてそれが広まる背景を説明してから、両者の関係性を明らかにする。最後に企業の業績に与える効果をまとめる。(連載一覧はこちら

イノベーションの定義

 イノベーションという言葉をみなさんはあまり意識をせずに使っているのではないだろうか。オーストリアの経済学者であるSchumpeterが100年以上前に提唱し、日本では「技術革新」と訳されてきた経緯がある。一方最近では、いわゆる発明だけでなく、利益を生み出してこそのイノベーションであるという認識も広まってきている。イノベーションを扱った書籍はさまざまあるが、実務家には清水の書籍がわかりやすい。
*清水洋 [2022], 『イノベーション』 有斐閣。

 清水はイノベーションを「経済的な価値を生み出す新しいモノゴト」としている。経済的な価値を生むという点で、画期的な製品やサービスを生み出しても、売上高や利益につながらなければイノベーションとは呼べない。またわずかな改良や改善も新しさに含めている。本定義によると、新規事業の創出・既存事業の見直し・新規なビジネスプロセスの構築などは、すべてイノベーションに含まれる。

 現在ではさまざまな企業がイノベーションを求めているが、本当に必要なのだろうか。このあたりについては入山の説明が参考になる。従来の経営学では未来が予測できることを前提として、安定した持続的な競争優位の獲得を目指す戦略が議論されてきた。しかしながら不確実性が高く変化が激しい現在においては、連続する変化への対応を目的として、イノベーションを継続的に創出することが求められている。
*入山章栄 [2019], 『世界標準の経営理論』 ダイヤモンド社。

オープンイノベーションの定義

 オープンイノベーションの話をする準備が整ったので、最初のChesbroughによる定義を確認したい。2003年の書籍では次のように説明されている。

Open Innovation is a paradigm that assumes that firms can and should use external ideas as well as internal ideas, and internal and external paths to market, as the firms look to advance their technology.
(オープンイノベーションは一種のパラダイムであり、企業は社外のアイデアを社内と同様に利用できる、またすべきである。技術の商業化に当たっては、社内と社外の両方の道筋がある:筆者訳)

 パラダイムとは、ある時代に支配的な物の考え方や認識の枠組みであり、社外のアイデアを社内のものと区別せずに活用する姿勢を示している。
*Chesbrough, Henry W.William [2003], Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology, Harvard Business School Press; McGraw-Hill. (大前恵一郎訳 『OPEN INNOVATION―ハーバード流イノベーション戦略のすべて (Harvard business school press)』 産業能率大学出版部, 2004年)

 続く2006年の書籍では、少し定義が変わっている。

Open innovation is the use of purposive inflows and outflows of knowledge to accelerate internal innovation, and expand the markets for external use of innovation, respectively. [This paradigm] assumes that firms can and should use external ideas as well as internal ideas, and internal and external paths to market, as they look to advance their technology.
(オープンイノベーションは知識の社内外への流れの意図的な利用であって、社内のイノベーションを加速し、社外における商業化を試みる。企業は社外のアイデアを社内と同様に利用でき、またすべきであって、技術の商業化に当たっては、社内と社外の両方の道筋がある:筆者訳)

 イノベーションの創出を目的として知識の流入と流出を利用するということで、最初のものと比べて行動に焦点が移っている。
*Chesbrough, Henry, Wim Vanhaverbeke and Joel West (eds.) [2006], Open Innovation: Researching a New Paradigm, Oxford University Press. (長尾高弘訳 『オープンイノベーション 組織を越えたネットワークが成長を加速する』 英治出版, 2008年)

 その後の2014年の定義は現在でも論文などでよく見かけるもので、研究者間の共通認識となっている。

Open innovation is a distributed innovation process based on purposively managed knowledge flows across organizational boundaries, using pecuniary and non-pecuniary mechanisms in line with each organization’s business model.
(オープンイノベーションは分散化したイノベーションプロセスである。その元にあるのは意図的に管理された組織の境界をまたぐ知識の流れであって、金銭的・非金銭的なメカニズムが各組織のビジネスモデルに合わせて利用される:筆者訳)

「各組織のビジネスモデルに合わせて」とあるように、一企業を越えてエコシステム全体に視点が移っている。
*Chesbrough, Henry, Wim Vanhaverbeke and Joel West (eds.) [2014], New Frontiers in Open Innovation, Oxford University Press.

 以上のようにオープンイノベーションという言葉の定義自体が、時代によって変わってきたという経緯がある。アカデミアでの議論を参考にするなら最新のものを用いるほうがよいかもしれないが、本連載はあくまでも実務家を対象としている。企業がオープンイノベーション活動を推進するうえでは、最初のものがわかりやすい。よって以後は「外部を活用するという考え方」を指すものとして進めていく。

オープンイノベーションの背景

 企業内のリソースだけが使用できる状況と比べて、内部と外部の組み合わせが検討できるなら、選択肢が増えることで生産性の向上が期待できる。これは当たり前のことに思えるが、なぜようやく2000年代に入ってからオープンイノベーションという言葉が注目されるようになってきたのだろうか。その背景には業界によって違いがあるものの、企業を取り巻く3つのトレンドが影響している。

 第1にイノベーションの創出が困難になってきている。以前と比べて、多くの業界において技術開発に必要なコストが上昇している。また科学技術の発展や顧客ニーズの変化が早まる中で、製品やサービスのライフサイクルが短くなっている。結果として売上高よりも研究開発費の上昇率が高まっており、イノベーションの創出方法を抜本的に変える必要性に迫られている。

 第2の要因は有用な外部の知識の増加である。従来は専門的な能力の大きな割合が先進国の一部の大企業に集中していたのに対して、現在ではベンチャー・スタートアップ企業を含む世界中のさまざまな組織に有能な人材が分散している状況にある。加えて大学や研究機関が実学志向を強め、企業が求めるような分野で積極的に研究活動を行い、関連する特許を取得するようになってきた。

 最後は、知識の探索方法に関するものである。インターネット普及に伴い、誰でも簡単に情報を検索できるようになっている。またベンチャーキャピタルやオープンイノベーション仲介業者の登場により、企業は協業パートナーの探索を外部に委託できるようになってきた。つまり自分で探そうと思えば探せるし、サービスを活用することで効率よく探せる環境が整ってきている。

1 2

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー