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オープンイノベーションと知的財産権:成果を出した先進的な企業は何をやったか

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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◆本連載が書籍化しました!【2024年3月1日発売】

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◆同日開催のカンファレンスにて、オープンイノベーション関連セッション開催!
JAPAN INNOVATION DAY 2024 【2024年3月1日・ベルサール汐留で開催】
セッション名「2024年、日本のオープンイノベーションの現在地を探る」(11:30-12:00)


 

 オープンイノベーションでは境界を越えた知識のやり取りが発生するため、知的財産権は重要なトピックとなる。本稿では企業のオープンイノベーション担当者が知っておくべきポイントを紹介する。(連載一覧はこちら

知的財産権の保護がオープンイノベーションに与える影響

 知的財産権の過剰な保護はその価値の際限のない増大を招くため、オープンイノベーションにおける知的財産権の買収・譲渡・ライセンシングを阻害する。一方でまったく保護がない状態では、各々の企業が外部への情報流出を恐れてクローズドイノベーションから抜け出せない。オープンイノベーションを促進するためには、知的財産権を適切に保護する仕組みが求められる。

 企業の立場では、買収しようとしている知的財産権の法的保護の確認や、権利の残存期間・範囲などに基づく強さの査定が容易に行えるようになるほど、オープンイノベーション活動に取り組みやすくなる。Péninは第三者が最小限のコストと最低限の不確かさのもとで、関連特許の同定・技術的な境界の理解・所有者の同定が行えるときにのみ、オープンイノベーションが促進されることを報告している。
*Pénin, Julien and Daniel Neicu [2018], "Patents and Open Innovation: Bad Fences Do Not Make Good Neighbors," Journal of Innovation Economics & Management, n°25, 57-85.

 本連載第2回でオープンイノベーションと財務パフォーマンスの間にS字型の関係性があることを示した報告を紹介した。本報告では技術に対して効率的な法的保護のメカニズムが働く場合には、高レベルのオープンイノベーションから十分なベネフィットが得られることが明らかになっている。このように各地域における知的財産権を取り巻く環境は、オープンイノベーション活動に大きく影響する。
*Schäper, Thomas, Christopher Jung, Johann Nils Foege, Marcel L.A.M. Bogers, Stav Fainshmidt, and Stephan Nüesch [2023], "The S-shaped relationship between open innovation and financial performance: A longitudinal perspective using a novel text-based measure," Research Policy, 52(6), 104764.

オープンイノベーション活動における知的財産権

 続いてオープンイノベーションチームの立場で知的財産権について考えてみる。Lindegaadは大企業がオープンイノベーション活動を行う際の知的財産権の取り扱いについて報告している。

●過去数年間でより多くの企業がオープンイノベーション活動で成果を出すようになってきており、それにつれて知的財産権についての質問が少なくなってきた
●現在では知的財産権の問題は、オープンイノベーションカンファレンスの主要な議題ではない
●リスクを最小限にすることのみを意識してきた大企業の知財部は、協業パートナーとの取り組みを機会と見るようになってきている
●以前は大企業と中小企業が協業する際に、大企業側が法律用語で満ちた長文の契約書類を準備し、中小企業側がそれを読み解くために弁護士を雇って対抗するという不毛なやり取りが行われていた
●オープンイノベーションで成果を出している大企業は、協業パートナー候補との対話を促進するためのシンプルな書類やアプローチを開発してきた
●最終的には契約書類が必要だとしても、最初に要点のみ記した短い書類を準備することで協業交渉を効率よく行える

*Lindegaard, Stefan [2011] Making Open Innovation Work, CreateSpace Independent Publishing Platform.

 このように2011年の時点で、先進的な企業は知的財産権の取り扱いに習熟していることがよくわかる。したがって何か問題が発生した場合には、過去の議論を調べることで解決できる可能性が高い。

 本連載第3回で説明したWFGMモデルのGetフェイズにおいては、協業パートナーとの契約交渉が発生する。実際の業務は知財法務部に任せるにしても、オープンイノベーションチームも契約について一通りのことは知っておきたい。例えば下記など、さまざまな書籍が存在する。

●鮫島の書籍では、特許が関連する契約のポイントがまとめられている
*鮫島正洋 [2022], 『第2版 技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス』 日本加除出版。
●山本の書籍では、ベンチャー企業との契約のポイントがまとめられている
*山本飛翔 [2021], 『オープンイノベーションの知財・法務』 勁草書房。

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