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いま改めて、オープンイノベーションについて話す:オープンイノベーションチームがあらゆる企業に置かれる日

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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◆本連載が書籍化しました!【2024年3月1日発売】

■Amazon.co.jpで購入
 

◆同日開催のカンファレンスにて、オープンイノベーション関連セッション開催!
JAPAN INNOVATION DAY 2024 【2024年3月1日・ベルサール汐留で開催】
セッション名「2024年、日本のオープンイノベーションの現在地を探る」(11:30-12:00)


 

オープンイノベーションを具体化するには、「協業パートナーの探索に特化した機能部門」という考え方が重要だ。以前と比べて高度になった協業パートナーの探索を一手に担い、各部署の生産性を向上させる、いわゆる触媒の役割を持った機能部門として当たり前のように存在する時代、オープンイノベーションチームがあらゆる企業に置かれる日が来るかもしれない。(連載一覧はこちら

連載開始に寄せて

 ASCII STARTUPはメディアとして、オープンイノベーションの可能性に期待している。イノベーションを生む素地として、各種事業取り組みやイベントなどが日々展開されている。だが、実際のところ日本において、その情報についてはまだまだ壁があることを取材する側として感じている。

 長年その重要性は叫ばれているものの、特に大企業の日本国内における内容は、具体的な話は少ない。当事者からすれば大事なところをわざわざ出すメリットもないし、守秘義務もある。また成功をもって出したいといったケースもあるだろう(何をもっての成功かにもよるが)。メディアも含めて、出やすいのは生存バイアスがかかった情報であり、失敗における本質や、各社ごとの適したやり方など、担当者が知りたいであろう部分は見えにくいのが実情だ。

 日本のオープンイノベーションは確かに進んでいる。しかし、市場も含め、もっと変化があってしかるべきではないか。そんな中、NEDOの高度専門支援人材プログラム(SSA)で羽山友治氏と出会い、課題・疑問をぶつけたところ、「海外の研究者や実務家による報告では、大企業視点でのオープンイノベーションは議論され尽くされてきた感がある」という返事を得た。

 企業の担当者が持っている課題のほとんどは、世界中の研究者に調べられているという。もちろんイノベーションの方法は1つではないし、確実な正解はないものだが、それを知っておくことで確実に指針になるものがある。わざわざ車輪の再発明をする必要はない。

 本連載は、我々が見ているオープンイノベーションとは何なのか、実際の事業担当者が持つべき考えは何か、既存の言説に比べるとバイアスを通さずに情報を基礎から伝えられる機会だと信じている。すでにオープンイノベーションを進めている企業の場合はその戦略の参考にしても良いし、新たに進める場合は基本的な骨格をここから考えてほしい。

 この羽山氏の連載を羅針盤に、日本におけるオープンイノベーションのさらなる興隆が、そしてイノベーション研究の一端として、世界に続く新たな事業・研究での成果が生まれることを願う。

(ASCII STARTUP編集長 北島幹雄)

いま改めて、オープンイノベーションについて話すわけ

 ビジネスの現場にいるなら、「オープンイノベーション」という言葉を聞いたことがあるだろう。

 タイトルにオープンイノベーションを含んだウェビナーが日常的に開催されているし、企業・政府/自治体・大学などさまざまな組織における方針発表でその重要性が強調されている。だが一方で、人によって理解や定義が異なり、コミュニケーションが難しい。オープンイノベーションについて聞かれた際、定義づけられた正しい説明をあなたはできているだろうか。私自身、オープンイノベーションを実践する者として、しばしば迷うことがある。

 私は現在、スイス企業の日本への展開・日本企業のスイスへの投資促進を支援する役割を担うスイス・ビジネス・ハブにおいて、イノベーション・アドバイザーとしてオープンイノベーションに携わっている。スイスの技術シーズに興味がある日本企業を見つけ、探索活動を支援することが主な業務となる。この過程で大企業のオープンイノベーション活動に関して相談を受けることがあるが、相手の理解に合わせた説明が難しいと感じている。

 オープンイノベーションは、経営学におけるイノベーションに関する議論の中の1つのトピックに相当する。そのため、ある程度は経営学全般やデジタルトランスフォーメーション(DX)・新規事業開発のような他のイノベーションの専門分野との関係性を押さえておかないと、全体像がつかめない。加えて実務家からすると、研究者の議論と企業内での実践の間には距離を感じる部分もある。

 また現時点で流通している情報源は、大きく分けて3種類が存在しているが、それぞれに十分でない点がある。オープンイノベーションを提唱したHenry Chesbrough(ヘンリー・チェスブロウ)の著作など、研究者が書いたものは背景知識がないと読みづらいし、日々の業務からは遠過ぎる。またそもそも日本語に訳されている書籍は限られており、研究報告の大半は英文の学術雑誌に掲載されている。

 次に、企業でオープンイノベーション活動を推進してきた人々による書籍やセミナーは、自身の経験を元にした個別具体的な内容が多く、汎用性の点で難がある。また、企業にサービスを提供するオープンイノベーション仲介事業者の手によるものは、他社のサービスに極力触れないなど、自社に有利なバイアスが掛かっている。両者ともに、アカデミアの議論をフォローしているようには見受けられない。

 私はこれまでに、企業や仲介事業者においてさまざまな立場でオープンイノベーションに関わってきた。また相当数の書籍や論文を読み、実務家の立場から検討を重ね続けている。本連載では、上記とは異なる新たな視点から、企業のオープンイノベーション担当者には明日から使える実践的なノウハウを、またオープンイノベーションに興味があるすべての人々には理解に役立つ全体像を提供できると考えている。

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