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海外企業のオープンイノベーション活動:論文で精査された知られざる事例

連載
オープンイノベーション入門:手引きと実践ガイド

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本稿ではあまり目にする機会がないであろう海外企業のオープンイノベーション活動の事例を紹介する。いずれも学術雑誌に事例分析として掲載されたもので、実際のオープンイノベーション活動に役立つ学びが得られるものを選定した。(連載一覧はこちら

オープンイノベーションの海外事例分析

 オープンイノベーションに関する論文にはさまざまな種類があるが、その中で事例分析と呼ばれるカテゴリーが存在している。これは企業など特定の組織に注目して、関係者へのインタビューや2次データの収集を通じて分析する手法である。研究者が定められた作法に基づいて行うことから信頼性も高く、企業のオープンイノベーション担当者による講演などと比べて、深く考察されている。

 グローバルメーカーならP&GやPhilips、またいくつかの国内企業の事例がさまざまなところで繰り返し紹介されているのを見たことがあるのではないか。しかしながら上記の事例研究と比べて正確性に欠け、また企業のオープンイノベーション担当者の立場では、表面的な話を聞くだけでは活かしようがない。本稿では国内であまり知られていない海外企業の事例を扱った論文を実務的に役立つ学びとともに紹介する。

①Swarovski:全社的な文化となったオープンイノベーション

 Dąbrowskaはオーストリアのクリスタル・ガラスメーカーであるSwarovskiを対象として、成熟企業が両利きのメカニズムを使ってオープンイノベーションを採用し、硬直性に打ち勝つ方法を調査した研究を報告している。

●イノベーション戦略は以下の3つの段階に整理できる:
 ・クローズドイノベーションフェイズ
 ✔専有しているコア技術を社内で保護する
 ✔コア事業の強みを掘り下げることに注力し、限られた社外パートナーとのみ協業する
 ・オープンイノベーションネットワークフェイズ(2012年~)
 ✔限定された探索領域において、専門部門が知識の社外からの流入と社外への流出を増加させる
 ✔知識の探索・活用が異なる部門で行われる
 ・エコシステムエンゲージメントフェイズ(2017年~)
 ✔各重点部門が自身の判断で、知識の社外からの流入と社外への流出を活用する
 ✔知識の探索・活用が社外の関係者と共に組織横断的に行われる
●2017年にオープンイノベーションを全社員の文化的なマインドセットとして定義し、オープンイノベーション部門を解散した
●文化の変革を推進するため、以下のアクションが行われた:
 ・オープンイノベーション部門の元メンバーがファシリテーターの役割を担った
 ・オープンイノベーション活動を支援するためのインフラツールを導入した
 ・社内外での協業を奨励する報酬体系を設計した
*Dąbrowska, Justyna, Henry Lopez-Vega and Paavo Ritala [2019], "Waking the sleeping beauty: Swarovski’s open innovation journey," R&D Management, 49(5), 775-788.

 本連載ではオープンイノベーションチームを協業パートナーの探索に特化した機能部門として組織に根付かせることを目標としてきた。Swarovskiは約5年間でこの段階を完了し、チームを解散している。現状では難しいと思われるが、将来的に使いやすいテクノロジースカウティングツールが普及したり、手法や仲介業者の活用方法が標準化されたりすれば、専属のチームは必要なくなるのかもしれない。

②Haier:中国企業が初めて構築したオープンイノベーションプラットフォーム

 Gaoは世界最大の白物家電メーカーであるHaierを対象として、境界を越えた知識を探索・統合するメカニズムを調査した研究を報告している。

●Haierはオープンイノベーションプラットフォーム(OIP)としてハイアールオープンパートナーシップエコシステム(HOPE)を運用している
●HOPEの特徴は以下の通り:
 ・中国企業が初めて構築したOIPである
 ・企業内プラットフォームとサードパーティープラットフォームの両方の特徴を備えている
 ・2013~2018年の間に300件の破壊的な製品を生み出してきた
 ・知識の探索・統合の成功率は8%以上である
●HOPEがたどった経緯は以下の通り:
 ・2009~2012年(リソースエントランス)――外部リソースを導入する窓口としての役割を担っていた
 ・2012~2014年(リソースマッチングプラットフォーム)――ウェブサイト上で要件を公開してマッチングする場に変わった
 ・2014~2015年(インタラクティブプラットフォーム)――技術リソースが十分に蓄積されたことから、自前でプラットフォームを構築・運用する方向に舵を切った
 ・2015~2016年(インタラクティブプラットフォーム)――リソースの需給のバランスが悪くなってきたため、Haierの外部にプラットフォームを開放した
 ・2016~現在(リソースネットワークコミュニティ)――需要・共有・投資資金などを取り込むエコシステムの構築に注力している
●HOPEの内部顧客は洗濯機・冷蔵後・冷凍庫・給湯器・キッチン用品・エアコンなどの製品ラインであり、外部顧客はさまざまな業界の企業で、知識の探索に加えてビジネスモデルのトレーニングなど多方面のサービスを提供している
●OIPによって、消費者の要求に対する包括的な理解・問題の適切な分解と技術リソースとのマッチング・効率的なリソースの統合が実現できる
*Gao, Junguang, Hui He, Donghui Teng, Xinming Wan and Shiyu Zhao [2021], "Cross-border knowledge search and integration mechanism – a case study of Haier open partnership ecosystem (HOPE)," Chinese Management Studies, 15(2), 428-455.

 WFGMモデルに基づいてオープンイノベーション活動を続けていくと、社外のシーズ情報が蓄積されていく。大企業でも自社で活用できるものは限られていることから、競合他社など外部の探索ニーズを引き入れていく方向性が考えられる。ニーズの数が増えれば増えるほど、ますますシーズが集まることが期待される。この段階では扱う情報量が増えるため、ニーズやシーズのデータベースを含めたシステム周りの構築が必要となる。

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