ニコニコ動画(ニコ動)やYouTubeといった動画共有サイトに投稿するのはアマチュアだけ。お金ももらえないのに、プロが投稿するなんてあり得ない。
世の中にはそう誤解している人が多いかもしれないが、実はプロの中にもそうした動画共有サイトの自由な気質に惹かれて、オリジナル作品を公開している人もいる。ニコ動ではそうした動画に「先生何やってんすかシリーズ」というタグが付けられるのが恒例だ。
ニコ動でイカすダンスミュージックを放っている「鼻そうめんP」もその一人。ユーザーから付けられた「鼻そうめん」という名前のインパクトもさることながら、曲自体のクオリティーもかなり高い。事実、過去に投稿した「インカネーション」「プラグアウト」「YOUTHFUL DAYS' GRAFFITI」というオリジナル曲は、すべて10万再生を超えて「VOCALOID殿堂入り」のタグが付けられた。
それもそのはず。鼻そうめんPの正体は、トランスでは世界的に名の知れたアーティスト「Hiroyuki ODA」なのだ。
さらに驚くことに、鼻そうめんPの動画に付けられた初音ミクのイラストも、彼自身の手によって描かれている。ネットで調べてみれば「かんざきひろ」名義で活躍しているイラストレーター・アニメーターとのこと。弊社刊のライトノベル「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」でもイラストを手掛けている。しかし、ストイックなイメージのあるトランス曲の作者が、なぜ萌え系のアニメ絵!?
トランスアーティストの「Hiroyuki ODA」、イラストレーター&アニメーターの「かんざきひろ」、そしてニコ動クリエーター「鼻そうめんP」という3つの名前を持つ彼は、一体何者なのか。にわかに同一人物によるものとは信じがたい「犯行」の数々。もしかして複数人のユニット? これは実際に会って確かめるしかない!と取材を申し込み、果たして我々の目の前に現れたのは、細身でひょうひょうとした感じの30歳の男性であった。もちろんたった一人の。
「鼻からそうめん出ました」
── まず「Hiroyuki ODA」がニコ動に投稿した理由を教えてください。最初は「チーターマン」※1でしたよね?
鼻そうめんP(HSP):みんながバカ騒ぎをやっている祭りに参加する、そういうノリでした。この人、なにバカやってるんだろう。そう思ってもらえることが楽しいんです。
── そこから最初の初音ミク曲「インカーネーション」に至るわけですね。
HSP:ニコ動にはミクの面白い曲が沢山ある。それがショックだったんです。僕は初代ボーカロイドしか知らなかったので、何であんな歌わせるのが面倒なソフトを皆使っているんだと。もしかしたら新しいバージョンで作業が楽になったのかもしれないと思って試しに買ってみたら、やっぱり面倒くさかった(笑)。でもせっかく手に入れたし、何か作ろうということですね。
── その曲がニコ動のランク上位に入り「鼻からそうめん出ました」とご自身でコメントに書かれた。それで「鼻そうめんP」になったそうですが、抵抗はなかったですか?
HSP:面白いからいいや、ってことです。タグが荒れて面倒なので「鼻そうめんP」でロックしちゃいました※2。
── 「Hiroyuki ODA」で出しているトランス曲との切り分けは?
HSP:ニコ動はトランスになじみのない人も聴くわけです。トランスというジャンルは、ものによっては退屈なので、ニコ動に投稿しているのは聴きやすい構成にはしてあります。
── それでもコメントで「イントロが長い」って言われちゃう。
HSP:クラブミュージックの性質上、仕方のないことですね。長いと言われるのはネタとして楽しんでいます(笑)
── 音楽とアニメの切り分けはどうですか?
HSP:音楽は完全に趣味です。絵は仕事で死ぬほど描いているので、そのフラストレーションで音をいじっているのかも知れません。
── どっちにしても作ってばかりですね。作品をアウトプットするためには、たくさんのインプットも必要と言われていますが、いつ音楽を聴いているんですか?
HSP:今は有名なDJのラジオがネットで聴けますから。そういうところでインスピレーションを得ています。アニメーターの仕事中にも聴けますし、ポッドキャストならiPodでどこでも持ち出せます。
※1チーターマン:「BGMが妙に癖になる!」とニコニコ動画で人気を集めるアクションゲーム。ユーザーの手による多くのアレンジ、リミックスが生まれている。
※2タグロック:ニコニコ動画の動画に付けられるタグは、見る側が自由に変更できる。この変更を防ぐために、投稿者側に用意された機能がタグロックだ。タグロックは「なぜこの単語をタグロックするのか(笑)」と話題を作る目的でも使われている。