「ぎゅいいいいいいーん」、「ぎゅろろろろろろー」。
スイッチを入れ、つまみをひねると、そんなふうに鳴りはじめる楽器がある。それがコルグの「monotron」というシンセサイザーだ。単4電池2本で動作し、サイズはiPhone程度。それが5000円ほどで売られている。
安くて手のひらサイズの電子楽器はもう珍しくないかもしれないが、monotronがすごいのは、純然たるアナログシンセサイザーということ。しかもアナログのクオリティを維持するため、すべて日本で製造されている。
ただし構成は極めつけにシンプルだ。音源となる発振器の「VCO」。それにフィルターをかける「VCF」。VCOのピッチやVCFのカットオフを揺らす「LFO」が1基づつという構成だ。VCAやエンベロープジェネレーターはない。
演奏するのは鍵盤状の「リボンコントローラー」。さわるとゲートが開いて音が出る仕組みだ。鍵盤はプリントされているが、指をすべらせるとテルミンのように無段階に音程が変わる。それでスケールにのっとったメロディーを演奏するのは至難の業だ。おまけにピッチは約1オクターブ分の幅しか与えられていない。おのずと使い道は限られるだろう。
monotronの魅力は、太くて刺激的なシンセの音。それは本物のアナログ発振器でなければ得られない。昔のシンセらしい作法で、既存の音楽を模倣するのはとても難しい。だが最近の音楽に求められる「アナログっぽいノイズ」は大得意。レンジの広いLFOと、強烈な切れ味を持つフィルターの組み合わせで、相当に「イッちゃってる」感じの音がする。
つまり、これは決して「懐古的」なアナログシンセではないはずだ。では2010年の現在に、こんなシンセを作った意図はどこにあったのか。コルグでmonotronを企画した坂巻匡彦さんと、回路設計を担当された高橋達也さんにお話を伺った。
■ KoishistyleさんによるYouTube動画
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