相変わらず、音楽業界は下り坂。様々な疑問を呈しつつ離れて独立するのはミュージシャンだけではない。いわゆるA&R(Artist and Repertoire)マンがメジャーレーベルから独立し、サイトを起こした例もある。それが、デジタルデータ配信サイト「nau」※だ。
「8:2で分けましょう」という利益分配率の明示がnauのコンセプト。音楽に支払った金額の、どれくらいがミュージシャンに渡るのか。それが一目瞭然というのが、nau最大のセールスポイントだ。それは我々が音楽に払ったお金の行先が、今まで極めて不透明だったということの裏返しでもある。
※ nau : 「New Artist Union」の略。「なう」と読む。
配信されるデータはDRMは掛からない。基本的にアーティスト側の用意したファイルがそのまま配信される。音楽だけでなく、デジタルデータ配信サイトと銘打つだけあって、ムービーやマンガ、テキストなどデータで売れるものなら何でも扱うという。
このnauの中心人物は小寺修一さん。自力配信で「一億年レコード」を売っている、まつきあゆむさん(関連記事)を担当してきたマネージャーでもある。彼は長い間、A&Rマンとしてメジャーレーベルに関わってきた。その彼がデータ配信サイトをはじめたのはなぜか。
また、nauのように決済システムとソーシャルメディアを核とした、ネット上のスモールレーベルは今後増えてくることも予想される。それはいったいどんな役割を果たしていくのだろう? というわけで、小寺さんに話を聞いてみよう。
小寺修一(こてらしゅういち)
1969年大阪生まれ。1993年ソニーミュージックエンタテインメント大阪営業所入社。プロダクション、レーベルなど数社を経て、2005年UMA RECORDSを設立。2006年EMI MUSIC JAPANにてUMA RECORDSの運営を行う。2009年EMI MUSIC JAPANを離れて、レーベル/マネージメントUMA INC.設立。現在に至る。
「8:2で分けてみよう」の理由
―― スタートから数日間、サイトがダウンしていたようですが。
小寺 いや、ほんとにあれは申し訳ないと思ってます。アクセスが集中しすぎたり、我々が対応に不慣れなこともあってご迷惑をおかけしました……今は問題なく動いてます。
―― 注目されていた証だとも思うのですが、スタートからの手応えはどうです?
小寺 やっぱり音楽が本当に好きで、アーティストとの関係を真面目に考えている人が多かったんだと実感してます。最近、音楽の話題っていえば、やれ違法コピーがどう、やれDRMがどう、やれJASRACがどう……と、不必要に後ろ向きな話ばかりでうんざりしてたんです。でも音楽のことを真剣に考えているリスナーはちゃんといるんだと分かった。それがやっぱり嬉しかったですね。
―― nauのウリは「8:2で分けてみよう」という利益分配率を示していることだと思うのですが、まず、これでやっていけるのですか?
小寺 分かりません。8:2が絶対に正しいとも思わないし。でも、大切なのは売る人にも買う人にも楽しいサイトであることだと思ってます。そのためにはアーティストへの支払額が分かることが重要だと思って。8:2は「ユーザー」への分かりやすさを考えた結果です。
―― たしかに、自分の払ったお金のどれくらいがアーティストへ行くのかが分かれば、購買動機にもなりますからね。
小寺 それが今までは不透明すぎたし、ミュージシャンに入る額が安すぎたということです。
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