ミクを生ギターで歌わせる若干Pの「2つの顔」
初音ミクと聞くと、ランキング上位に入っている楽曲のイメージから「キャラクター性の強いテクノサウンドだけなんだろう」と勝手に決めつけてしまってはいないだろうか。かくいう筆者もその1人で、その先入観を打ち崩してくれた貴重なクリエイターが若干P氏だ。
代表曲は「アイシンクアンシン」「テレパステレパス」「ラビットフォーゲッツ」など。いずれもエレキにアコギなど、ギターの生音に合わせて初音ミクを歌わせており、世界観は完全にロックそのもの。ピロウズやくるり、ズボンズといった日本語ロックの文脈で評価されるべき音に仕上がった「ニューエイジ初音ミク」とでも呼ぶべきサウンドなのだ。
さらに特筆すべきはオリジナルの漫画を使用したPVの世界観。マルチクリエイター、ウィスット・ポンニミットの短編アニメーションのように、ちくりと肌を刺すような哀しみに満ちた作風は多くのファンを獲得している。
もともとは「ノッツ」名義でシンガーソングライターとしても活動している若干P氏。彼がなぜ初音ミクを使おうと思ったのか、そして音楽的なバックグラウンドや使用している楽器そのものについてまで、徹底的にその活動の詳細を聞いた。
初音ミクに興味を持ったきっかけはpixivだった
―― 初音ミクを手に入れた動機が他の人とは違うとおっしゃっていましたが、なぜ使おうと思ったんですか?
若干P これだけ聞くと分からないと思いますが、実はpixivに掲載した漫画がきっかけなんです。僕は自分のHPにも漫画を載せているんですが、pixivにだけ載せている漫画があるんですね。それが「4つ打ちリズムと初音さん」なんです。
元をたどると、僕はずっと自宅録音をやっていたんですけど、マンガや絵を描くのも好きでたまに描いていたんです。ギターを始めたのは高校からだったんですけど、バンドは文化祭のときだけ結成する感じでしたね。なにしろ田舎で、楽器屋も小さいのが1店、スタジオはないような状況でした。だから自宅録音ばかりしていました。
楽曲をHPに乗せてるだけでは反応が特になくて、たまにライブをやって気になってくれた方がHPまで来てくれて聴いてくれる感じでした。ライブも月に1回やる程度だし、山口県は田舎なので(笑)、活動自体がまったりとしていて。するとちょっとモチベーションも下がって、創作意欲がまったりしてくるんです。
そんな中で創作のモチベーションを上げてくれたのがホームページに掲載していたマンガだったんです。マンガにはコメントがつきやすかったので、MP3の場合よりも反応が分かりやすかったんです。
―― いつごろからpixivに移られたんですか?
若干P ちょうど2008年になるくらいにpixivに登録しました。pixivは「スター」がもらえるシステムもあるし、ブックマークやコメント、タグといった「反応」の宝庫だったんですよね。
実際にオリジナルのマンガ「レベル99」を掲載してみたら、沢山のスターをもらって、ランキングに入ったりもしました。その後で「オリジナルのマンガも面白いですけど、版権物を描かれたらどんな感じになるか気になります」というコメントをもらったんです。
版権物で、今の自分なりにマンガを描けそうな題材ってなんだろうと思ってたどり着いたのが、当時のpixiv内でも大人気だった初音ミクだったんです。それで描いたのが、初めに言っていた「4つ打ちリズムと初音さん」でした。