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あのクルマに乗りたい! 話題のクルマ試乗レポ 第61回

「ポルシェらしさ」で電気自動車の行く末を照らすポルシェ・タイカン

2020年12月11日 12時00分更新

文● 栗原祥光(@yosh_kurihara) 編集●ASCII

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初のEVとは思えない高い完成度
他社の追従を許さない

 いきなりタイカンに乗っても正確に伝えることができないと考え、前日に「911 ターボS カブリオレ」に試乗してから望んだ。現行911ターボを選んだのは、タイカンとほぼ同じか上回る出力を有しているからだ。そのレポートは別に記したいが、一言で言えばあまりの素晴らしさに感激した。それゆえ、タイカンは不利になるのではとも思ったが、それは杞憂であった。

苔寺周辺を走るタイカン

 まずはNomalモードで市街を走行。モータードライブゆえ、走行中はわずかにモーターの音が聞こえる程度で、室内は恐ろしく静寂である。乗り味は一般的なDセグメントのセダンと比べると遥かに硬質なのだが、一方でポルシェらしいシッカリ感がありながらも不快感を覚えない絶妙なバランス。

試乗車に取り付けられていた21インチホイール。タイヤはGOODYEAR製だ

 しかも試乗車にはオプションの21インチホイール(48万8182円)が取り付けられていたのだが、扁平タイヤ特有の乗りづらさ、不快さがまったくなかった。なんなんだこの足の良さは!

 ボディーの剛性感が恐ろしく高いのも特筆すべき事項だ。荒れた道でもビビり音などせず、剛体という言葉がふさわしい。スポーツカーたるもの、しっかりしたボディーが必要であるというポルシェの意志を感じた。

 操作フィールも911ターボと共通するもので、確かなステアリングフィールと最高のブレーキタッチには心底惚れた。内燃機関だろうが電気モーターだろうが、ポルシェが作るクルマはポルシェでなければならないという、当たり前のようで難しい課題を同社は見事にクリアしている。同社初の電気自動車でありながら、先行する各社EVを遥かに凌ぐ圧倒的な完成度の高さに、ドイツのクラフトマンシップであったり完璧主義ぶりを感じずにはいられない。

嵐山を走るタイカン

 そのまま日本有数の観光地である嵐山へステアリングを向ける。嵐山に限らず、ハイパフォーマンスカーで行楽地に乗り入れると、その排気音が気になるところだが、タイカンはモータードライブなので音は皆無。嵐山の街並みを実に静かに走行する。その姿に気づく人はほとんどいない。観光用の人力車を引く人も気づかないようで、その後ろをゆったりと走りながらタイカンの車内から眺めていた。色づく木々をバックにゆったりと走る。こんな贅沢な空間、ほかにあるだろうか? 

未体験のはじける加速に血の気がひく!
最高のハンドリングマシン

ワインディングを駆け上がるタイカン

 クルマを嵐山の町並みから、京都の美しい景色が一望できる嵐山-高尾パークウェイへと向けた。お楽しみのワインディングだ。まずはSPORTモードにセットにし、e-SPORTモードをオン。スーツを着たアスリートのジャケットを脱がせて、その片鱗をみせてもらうことにした。まずはヒルクライムから。アクセル踏み込んだ瞬間、まるでSF映画に出てくるタイムワープのような加速! シートに体が張り付き、血の気が引くような「はじける加速」は、よい意味で刺激的。とても2.3tのクルマの加速とは思えない。エンジン音とは異なる新しい音も刺激を演出する。サスペンションも硬く、その乗り味は911ターボそのものといってよいほど。とんでもないクルマだ!

 SPORTモードからSPORT PLUSモードに切り替えると、一層刺激的な乗り味に変わる。右足のスロットルペダルとタイヤが直結されたかのよう。右足をわずかに動かすだけで、タイムラグなく強烈に加速していく。これはいかなる内燃機関のクルマでも成しえないだろう。

 コーナリングも感動的だ。重量物であるバッテリーをフロア下に置いたことによる低重心化だけでなく、重量配分のよさと、リアアクスルステアリング機構によって、まるでミッドシップ車のような旋回性を発揮する。これまた今まで体感したことのない走り。クルっと回って怒涛の加速を繰り返しながら急坂を登坂していく。旋回性のよさとソリッドな手ごたえに舌をまく。

坂を下るタイカン

タイカンのペダルレイアウト。アクセルペダルは伝統のオルガン式で、最近の電気自動車に採用されている「ワンペダル動作」には対応していない。しかしそれはまったく不要であることをタイカンは教えてくれる

 ダウンヒルも刺激的。タイカンの回生量は調整できると書いた。オン時においてブレーキペダルを踏んでも、その制動力の9割はモーターの回生によるものだという。にも拘わらず回生オフ時のポルシェらしいブレーキフィールとタッチを実現しているのだ。タイカンは電気自動車の多くで採用されているワンペダル動作を採用していないのだが、それはこのブレーキフィールを楽しんでほしいというメッセージであると受け取った。この制御技術には驚きだ。

【まとめ】ポルシェ恐るべし!
タイカンはベストバイな1台

ポルシェ/タイカン

 初めての電気自動車でありながら、しっかり「ポルシェに乗っている」という実感が得られるタイカン。その完成度は他社の電気自動車を超える次元にあり、最新こそ最良というポルシェの掟は電気自動車にも受け継がれていた。なによりクルマに限らず新製品の多くは、目新しさを求めて改良という名の全変更を行なった方がウケがよいと思いがちだし、実際開発もラクだ。だがポルシェはスタイリング、内装、走行フィールで「ポルシェに乗っている」という実感を与えてくれた。

 冒頭で「誰もが「サスティナブル」という言葉を使い始めて幾年月」と書いた。サスティナブルは「社会や人間の活動が地球環境を維持しながら未来に向けて」という意味で、企業がよく使う言葉だが、もともとは「持続可能な」という形容詞だ。自動車の電動化にともない、業界は100年に1度の変革期を迎えていると言われている。だが、自動車メーカーが持続する上で、もっとも大切なのはクルマが売れること。その意味で伝統やブランドイメージはとても大きな力となる。

 「ブランドイメージなど、年間約28万台のハイブランドメーカーだから必要であり、量販車メーカーには不要」と言われるかもしれない。だが一部で「電池とモーターがあればクルマができる。自動車メーカーは厳しい時代を迎える」という論調が出てくるのは、何を買っても同じと受け取れるクルマをメーカーが作り続けてきたからではないだろうか。

ポルシェ・タイカン

 ポルシェは伝統やブランドポリシーを大切にし、その中でこれまでいくつもの革新的技術を取り入れてきた。ゆえに長年に渡り企業が存続するばかりか、9年連続で販売台数を伸長。日本でも昨年、過去最高の7192台を売り上げるに至った。そんなことまで考えてしまうほど、ポルシェ・タイカンのレベルは高いのだ。カーボンニュートラルの時代が来ても、ポルシェの未来は明るいと断言したい。そして100年に一度の転換期だからこそ、各自動車メーカーは「自分たちがどういうクルマを作るべきなのか」をしっかりと見直す時期でもある。

 そしてカーボンニュートラルにより内燃機関がなくなるという話に憂うことはないとも感じた。もちろんガソリンを燃やして、力と音、振動に変換する内燃機関は大好きだ。だが、タイカンのように素晴らしい電気自動車が登場したのである。思えばポルシェの創業者であるフェルディナント・ポルシェ博士が初めて設計したクルマは、電気自動車(ローナーポルシェ)だ。1899年に誕生したローナーポルシェ以降、クルマは内燃機関を搭載し、進化を続けてきた。そしてまた電気に戻ろうとしている。だが運転する楽しみ、クルマの楽しみはいかなる時代も失われることはないのだろう。

ポルシェ「Taycan Turbo」の主なスペック
サイズ 全長4963×全幅1966×全高1381mm
ホイールベース 2380mm
車重 1785kg(EU準拠)
モーター 永久磁石同期式電動モーター
最高出力 680馬力
最大トルク 850Nm
最高速度 260km/hm
0-100km/h加速 3.2秒
トランスミッション 2速
価格(税込) 2023万1000円

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