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社長はAIで代替できるのか?

事業創造の本質を問うアフター・シンギュラリティの興味深いテーマ

連載
アスキーエキスパート

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経営者と同じくらい信頼できるAIの実現は可能か?

 本記事では、経営者の仕事のごく一部である「コミュニケーション」に着目した上で、AI経営者の実現の可能性について考察した。そして、あくまで筆者の個人的な意見ではあるが、この限られた役割に対しても、AI経営者が実際の経営者を代替することは難しいという結論を導き出した。

 今回の考察は、筆者の専門領域であるAI関連技術、具体的には自然言語処理や対話インタフェースを中心に論じた。実際には、これら以外の技術の発展と組み合わせによって、上述した問題が解消される可能性がある。たとえば、ロボティクス技術が高度に発展し、実際の人間と見分けがつかない外見のロボットが実現された場合、少なくとも対面というコミュニケーションチャネルの狭さというインタフェースの課題は解消される可能性はある。

 この前提に立った場合、最終的にAI経営者が完全に認められるための条件は、技術の発展ではなく、AI経営者に相対する人間側にあるのかもしれない。すなわち、AIが発信する情報に対し、人間がどこまで信頼を寄せることができるかという問題である。

 実際、「信頼できるAI」は、現在ホットな研究領域であり、AIに関する倫理の指針作りの中でも重要なトピックスとして取り上げられている。しかし、この領域においてAIが目指す「信頼性」とは、AIによる判断の根拠の説明など、人間が安心してAI関連技術を利用できるための技術に関するものである。これに対し、AI経営者に求められる「信頼」は、AIのユーザとしての人間が求めるような安心感ではなく、AIが多くの人間を「動かす」ことができるレベルの信頼であり、一段レベルが高い概念である。

 高度な信頼感が持てるAI経営者を実現するための第一歩として、実際に多くの人間の信頼を得ている経営者をAIとして再現することは有用なアプローチに見える。しかし、この実現自体が難しいことは、本記事の考察を通じて説明した通りである。その上、仮に特定の経営者を忠実に、かつ長期間にわたりAIで再現できたとしても、このAI経営者があらゆる状況下において、あらゆる組織に所属する人を率いられるとは限らない。

 冒頭の「実践リーダーシップセミナー」の講義を複数回受講し、さまざまな経営者の実体験を元に議論を重ねた結果、筆者が気づかされたのは「リーダーシップに唯一の正解はない」というシンプルな事実である。

 人類が未だ導き出せていないリーダーシップの真理を、AIは実現できるようになるのか? 技術的にはまだまだここまでの世界感が想像できるレベルには到達しておらず、真剣に悩むには時期尚早に思える。しかし、いずれくる(かもしれない)シンギュラリティの時代に向け、そもそもAI関連技術を適用すべき領域かどうかも含めて、AI研究者のみならず、社会全体で考えを深める必要があるだろう。

アスキーエキスパート筆者紹介─帆足啓一郎(ほあしけいいちろう)

著者近影 帆足啓一郎

1997年早稲田大学大学院修了。同年国際電信電話株式会社(現KDDI株式会社)入社。以来、音楽・画像・動画などマルチメディアコンテンツ検索の研究に従事。2011年、KDDI研究所のシリコンバレー拠点を立ち上げるため渡米し、現地スタートアップとの協業を推進。現在は株式会社KDDI総合研究所・知能メディアグループ・グループリーダーとして、自然言語解析技術を中心とした研究開発を進めるとともに、研究シーズを活用した新規事業創出に取り組んでいる。電子情報通信学会、情報処理学会、ACM各会員。経済産業省「始動Next Innovator 2015」選抜メンバー。

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