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アスキーエキスパート 第58回

事業創造の本質を問うアフター・シンギュラリティの興味深いテーマ

社長はAIで代替できるのか?

2019年03月07日 09時00分更新

文● 帆足啓一郎/アスキーエキスパート

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(課題2)インタフェースの限界

 2つ目の課題は、インタフェースの限界である。

 AI経営者がデジタル世界でしか存在しないと仮定した場合、実世界の中で存在する人間とのコミュニケーションのチャネルは狭くなる。ネットが普及し、さまざまなコミュニケーションツールが発達した現代においても、結局、F2Fの対話に勝るコミュニケーションチャネルがないことは、さまざまな社会心理学の研究事例が示している。つまり、人間との直接のコミュニケーションチャネルを持ち得ないAI経営者は、少なくとも身近な人間に対しては、実際の経営者ほどの濃密なコミュニケーションはとれないといえる。

 一方で、特に大企業においては、自社の経営者と社員が直接対話を行なう機会はほとんどない。実際、自社の社長からのメッセージは、直接語りかけられるよりも、ウェブや社内報などを通じて間接的に受け取ることが多いのではないか。直接対面できないAI経営者であっても、実際の経営者と同じような影響力が発揮できる可能性もありそうである。

 だがこの可能性について、筆者は否定的に捉えている。なぜなら、経営者が発揮する影響力は、経営者自身が1人で発揮できるものではなく、周囲の人間の反応も含めて形作られるものであるからである。

 経営者から発信されるメッセージは、すべて経営者自身が直接伝えられるわけではなく、周囲の人間によって拡散されるものである。経営者からのメッセージを企業の中に伝達していく役員や管理職などは無論のこと、そのメッセージにより実際の行動を起こす人などの存在によって、はじめて経営者のメッセージが多くの人に影響をおよぼすものとして認識されるのである。

 つまり、経営者からのメッセージを多くの人に届けるためには、経営者の近くでメッセージを受け取り、直接反応を示す人、具体的には側近やフォロワーの存在が不可欠なのである。そして、実際の経営者がAI経営者に代替された場合、AI経営者のコミュニケーションチャネルの限界により、長期的に側近やフォロワーをつなぎ止めることは難しいと考えられる。その結果、AI経営者の情報発信力の低下は避けられず、時間の経過とともに、AI経営者の求心力も下がると思われる。

 上記の2つの課題に対する考察をまとめると、AI経営者が実在の経営者のある時点での思考・行動履歴に基づいて忠実に生成された思考モデルとして実現されたとしても、時間の経過にともない、思考モデルは実在のものとは乖離する上、経営者として発揮できる影響力の低下も避けられない。したがって、AI経営者による実在の経営者の代替は、短期的なピンチヒッターとしては機能する可能性はあるものの、長期的には実在の経営者とは別の人格となるため、完全な代替にはなりえない……というのが筆者の結論である。

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