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人件費1%削減で「あと1人採れる」。VCスタートアップ健保、3.3万人規模へ拡大

大企業並みの福利厚生をどう実現するか。変わるスタートアップ福利厚生

 VCスタートアップ健康保険組合は2026年6月1日、設立2周年を迎えたと発表した。加入者数は約3万3000人、加入事業所数は472社に拡大。設立から約2年間で、国内スタートアップ企業における全体の健康保険料負担を累計約20億円軽減したと同組合は試算している。単なる保険料の節約にとどまらず、近年はディープテック領域を中心に採用を支える役割も強まりつつある。

スタートアップ向け健保、2年で3.3万人規模へ

 VCスタートアップ健康保険組合は、スタートアップや中小企業向けに特化した健康保険組合だ。同組合では、健康保険料率を8.98%に維持しており、協会けんぽの全国平均約10%と比べて、企業側・従業員側双方の負担軽減につながる。

 同組合の設立母体である一般社団法人VCスタートアップ労働衛生推進協会の代表理事・吉澤美弥子氏によれば、こうした負担軽減は、スタートアップの採用余力にも直結するという。

 「会社単位で見ると、人件費の約1%を削減できる計算になります。急成長フェーズではそこに時間をかけるか迷う経営者も多い中、最近は“1人でも多く採用したい”というニーズが強くなっている印象があります」(吉澤氏)

 同組合は、審査や健保規模の兼ね合いもあり、これまで営業活動をほぼ行わず拡大してきたが、2年間の運用を通じて、スタートアップ向け健保でも低料率かつ安定運営が可能であることを実証できたという。

ディープテックの増加で変わるスタートアップの採用と福利厚生

 従来、スタートアップが業界特化型健保へ加入する際には、「継続的な黒字経営」など厳しい条件が壁となっていた。特に研究開発型のディープテック企業では、創業初期から赤字投資が前提となるケースも多く、協会けんぽを選ばざるを得ない状況が続いていた。

 これに対し同組合は、出資元となるVCなどスタートアップ特有の事情を踏まえた審査基準を採用。赤字先行型企業も含めて加入を可能にした点が特徴だ。吉澤氏によれば、近年はディープテック企業の増加によって、スタートアップの人事・労務環境にも変化が生まれているという。

 「最近は宇宙、ロボット、環境エネルギーなど、ハードウェアを含む研究開発型の企業の加入が増えています。平和島やつくばなど、郊外に大規模拠点を構えて、全員出社型で開発を進める企業も多いです」(吉澤氏)

 ディープテック領域では、IT系スタートアップに比べて、大企業や製造業並みの重厚な福利厚生が求められる傾向がある。特に大手メーカーから転職する人材では、「福利厚生が弱くなるのではないか」という家族側の不安が採用上の課題になるケースも少なくない。

 同組合では、東振協(東京都総合組合保健施設振興協会)を通じた保養施設利用や福利厚生サービスを提供しており、こうした採用課題への対応にもつながっている。

離職率や休職率も可視化。健保が担い始めた組織運営支援 

 同組合では2025年度、加入審査の簡略化や運営自動化も進めた。過去2年間の運営で、滞納リスクや財政運営データの蓄積が進み、従来より幅広いスタートアップを受け入れられる体制が整った。審査では平均年齢だけでなく、年齢構成や事業モデル、オペレーション特性も含めてリスクを分析しているという。

 加入企業の平均従業員数は、この2年間で約25%増加した。ただし、スタートアップエコシステムでの環境変化もあり、以前であれば上場していた規模の企業が、未上場のまま成長を続けるケースも増えている。

 「採用や事業成長は続いているのに、上場に至らない会社がどうなっていくのか。セカンダリー投資家につないでもらえるかは気になるポイントです」(吉澤氏)

 スタートアップの企業規模の拡大に伴い、福利厚生やメンタルヘルス管理も、従来以上に重要性を増している。同組合では、離職率や休職率、精神疾患による休職割合などを可視化するダッシュボード機能を提供し、経営層向け勉強会も実施している。

健康経営を支援するダッシュボード機能を提供

 人材獲得競争が激化し、ディープテック企業が増加する中で、VCスタートアップ健保の拡大は、福利厚生が採用戦略や組織運営の一部へと変わりつつあるスタートアップ業界の変化を映している。

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