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アスキーエキスパート第57回

中期経営計画に入る「オープンイノベーション実践」が危うい理由

2019年01月17日 09時00分更新

文● 中村 亜由子/アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。eiicon(パーソルキャリア)の中村亜由子氏による大企業とスタートアップによるオープンイノベーション取り組みの実像についてお届けします。

 2015年にパーソルキャリアの新規事業として、オープンイノベーションプラットフォームを社内で起案し、サービスとして「eiicon」をオープンして約2年弱。業界においても、事業の推進者としてもまだまだ初心者・若輩、そんな私が講演・執筆なんて……という思いはいつも強くある。ただ、それでも筆を執り、また講演の場に出ていくのは、この2年の間にフリーミアムのプラットフォームだからこそ集まる多くの事案・事例から見えてきた景色があり、そこから伝えられることがあると考えているからだ。

 2020年を目前とした現在の日本において、オープンイノベーションは必要な処方箋である。ただ、それは魔法でも劇薬でもなく、地道な整理と努力が必要となっている。その日本なりの「オープンイノベーションの進め方」を、本稿では多くの事例を交えて伝えていきたい。

オープンイノベーションの幻想

 「東洋の奇跡」はどこへやら、日本は「0→1が苦手な国」、「新規事業創出が苦手な国」と烙印を押されて久しい。2018年5月16日に内閣府が発表した1~3月期の実質GDP(国内総生産)成長率の1次速報値は、前期比年率換算ベースでマイナス0.6%だった(https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2018/qe181/pdf/gaiyou1811.pdf)。景気の動きを判断する基本的な尺度であるGDPのマイナス成長は2年ぶり。大局的に見れば日本の経済が貿易に頼る部分が大きいのは宿命であり、グローバルの景気と連動する部分が大きいことは避けられない。

 また10年前のリーマンショックの痛手はまだ記憶に新しい。中長期的な景気安定には国内経済の実力を高めることが欠かせず、これはダイレクトに企業の「イノベーション創出」能力に寄与する。平たく言えば、IoTやAI、キャッシュレスなどに代表されるデジタル・ネットワークテクノロジーといった、世界中が注目する発展性がある分野にヒト・モノ・カネを再配分し、国内外を見据えた新しいプロダクト・商品・ビジネスが求められている。

 ただ、この「デジタル」・「ネットワーク」・「テクノロジー」・「ロボット」や、ほかの切り口の時流で言うと「ダイレクトマーケティング」、「個々のライフスタイルに合わせる」販売戦略などが、「今までの延長」ではない領域であった場合、日本企業は致命的な取り組みの難を抱えている。

 従来は限定された「既存事業の延長」を考えればよかったが、領域が少しでもそれた瞬間、方位磁石を失い、新しい事業の種が生みだしにくく、かつ、その良し悪しも判断できない。

 「延長」ではない「事業創出」となった瞬間、急に土地勘を失い、思考が止まってしまう企業がまだまだ多いというのが日本の現状であり、そこで出てくるのが、『オープンイノベーション』というマジックワードだ。中期経営計画において、必ず出てくる“新領域の事業創出”と“売上計画”。ここに一言「オープンイノベーションで実践」と書いてある。

 おいおい、ちょっと待ってほしい。

 「オープンイノベーションで実践」。これは非常に乱暴、かつ、危険な言い回しである。オープンイノベーションとはそもそもが、「企業内部と外部のアイデア・技術を意図的に組み合わせることで革新的で新しい価値を創り出すこと」であり、2003年にヘンリー・チェスブロウ(Henry William Chesbrough)が提唱したイノベーションの方法論である。

 社内の資源に頼るばかりでなく、社外との連携を積極的に取り入れるべきであるという主張の手法を指すのだが、結局のところは、ただの「やり方」なのだ。到達したいゴールがあり、そこに行くための手法でしかない。

 箱根温泉に行きたいけど、車で行くか、電車で行くか、の「車」や「電車」でしかないのだが、この到達したいゴール=「箱根温泉」なく、オープンイノベーションで実践=「電車でいきます」をゴールとしているお粗末さ、滑稽さが伝わるだろうか。

 自社の専門領域に関して、従来の日本企業は心血を注ぐような研究・改善・改良を繰り返してきた。専門の研究機関に比べれば知識の浅い部分もあるだろうが、それでもビジネス・マネタイズも含めるのであればその領域のプロであり、非常にくわしい知識を持っている。

 だが、こと別領域、自社専門の領域を少し出てしまうだけで、方位磁石をなくす感じというか、土地勘のない感じというか……そこで思考が停止している様子がよくわかる。

 新規事業創出において、外部のコンサルタントに頼って分析から領域決定までを依頼したりするのも同様だ。分析依頼自体を批判されることはない。内容も第三者のプロによる客観的な分析が出てくる。だが、チャレンジする領域まで決めさせるというのは少し、甘えすぎてはいないだろうか。

 自社が今まで研鑽を積んできた領域とは異なる別領域に参入し、同じくプロとして活躍しようというのだから、そこは自社の責任で決めるべきではないか。それを「オープンイノベーションで実践」という一言で片づけられている状況は、「オープンイノベーション」を魔法のようにとらえているように見えて仕方ない。

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