米マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが、今後12ヵ月以内にCEO(最高経営責任者)から退任するとの発表は、業界内で大きな話題となった。
米メディアでは、早くも次期CEOを巡る観測記事が数多く出ているが、同社が明らかにしているように、創業者であるビル・ゲイツ会長をはじめとする特別委員会によって、社内外から次期CEOが選出されることになる。マイクロソフトの象徴的存在であったバルマー氏の後継者選出だけに、その行方に業界関係者が注目するのはうなずける。
バルマーCEO退任の注目ポイント
今回のCEO退任において、いくつかの注目しておくべきポイントがある。
ひとつは、今後12ヵ月以内という点である。CEO交代は、IT業界でも突然というケースが多々見られるが、12ヵ月という期間をおいて移行するということは、バルマー氏の退任理由が、業績悪化や経営戦略のミスを問われるものではなく、正当な手続きを経て、後継者にバトンタッチするという流れであることを示している。
これはマイクロソフトの経営層において、これまでに何度も繰り返されてきたスキームだ。
ビル・ゲイツ氏が第一線から退く際にも、2年という歳月を経てから実行に移され、現在、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のCEOを務めるジェフ・レイクス氏が退任する際も1年間の移行期間を設けた。最近では、クレイグ・マンディ氏が、今年7月の組織変更でシニアアドバイザーに就任することが発表されると同時に、2014年の退任が明らかにされ、同様に後継者への移行期間を設けている。バルマー氏も同様のスキームで、12ヵ月以内で後継者へと移行を行なうことになる。
もちろん、12ヵ月「以内」という表現も気になる。後継者が早く見つかれば、12ヵ月を待たずに引退するということだろうが、順当に考えれば、マイクロソフトの決算期である2014年6月末を待っての引退か、あるいは同社にとって重要な節目となる社内会議「ミッドイヤーレビュー」が行なわれる2014年1月のタイミングが有力だろう。
実際、ゲイツ氏からバルマー氏に、CEOのバトンが渡されたのは2000年1月13日。まさにミッドイヤーレビューのタイミングであった。新体制でミッドイヤーレビューをこなし、下期に向けて事業を加速することも考えられる。
マイクロソフトを大きく飛躍させたバルマーCEO
バルマー氏退任の報道では、タブレットやスマートフォンでの遅れが指摘され、それがバルマー氏を退任に追い込んだとの見方が支配的だ。市場の変化に追いつけなかったという事実は、否めない点だろう。
しかし、バルマー氏がCEO在任中の13年間に渡って、マイクロソフトが大きな変化を遂げてきたことに触れられていないことは残念だ。
例えば、バルマーCEOがCEOに就任した同社2000年度(2000年6月期)の売上高は229億ドル(約2兆3000億円)であったが、2013年度の売上高は778億ドル(約7兆8000億円)。この13年間で、売上高は3.4倍にも成長しているのだ。もとも分母の大きな企業であっただけに、これだけの成長を成し得たことは評価される経営手腕だといっていい。2009年にリーマンショックの影響を受けてこの時だけは落ち込んだが、これを除けば右肩上がりで売上高は成長し続けている。
そして、2000年当時は、クライアントPC向けのWindowsビジネスが主力だったが、バルマー氏のCEO就任1ヵ月後に発表されたWindows 2000に代表される企業向け製品群の強化、Server製品群の拡張などにより、ビジネス構成比は大きく変化。2013年度の業績では、最も大きな事業がOffice事業の247億ドル(約2兆5000億円)、次いでServer事業で203億ドル(約2兆円)、そして3番目にクライアント向けWindows事業の192億ドル(約1兆9000億円)となる。事業規模を大きく成長させ、クライアント向けWindows中心だったマイクロソフトを、法人向けビジネスを中心とした企業へと大きく転換させたのはバルマー氏の功績だといっていいだろう。
その一方で、2000年にはゼロだったXboxによるゲームビジネスは、米国を中心に最も売れたゲーム機としてもギネスに認定。2013年度の売上高は102億ドル(約1兆円)となり、同社にとって4番目の事業の柱にまで成長している。これも変革のひとつだ。
そして、もうひとつ、「世界中のすべとの人々とビジネスの持つ可能性を、最大限に引き出すための支援をすること」とするマイクロソフトのミッションを制定し、社会貢献活動などに積極的に乗り出し始めたのも、バルマー氏がCEOになってからのことだ。
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