米マイクロソフトの次期CEOに、サトヤ・ナデラ(Satya Nadella)氏が正式に指名された(関連リンク)。
1992年に米マイクロソフトに入社したナデラ氏は、1967年生まれの46歳。3月には58歳になるスティーブ・バルマー氏から、ざっとひとまわり若返ることになる。長期的な舵取りも視野に入れた人事だといえよう。
ナデラ氏は、22年間に渡るマイクロソフトへの在籍の中で、Microsoft Business 部門のバイスプレジデント、オンラインサービス部門の研究開発担当シニアバイスプレジデントなどを歴任。昨年まではサーバー&ツールビジネス担当プレジデントとして、190億ドル規模の事業を統括。同社新年度に入ってからは、クラウド&エンタープライズ担当エグゼクティブバイスプレジデントとして、同社が推進するコンピューティングプラットフォーム、開発ツール、クラウドサービスを担当し、マイクロソフトが今後注力する「Cloud OS」の推進役を担っていた。
実際、ナデラ氏は、「クラウドファースト」のメッセージングを打ち出し、マイクロソフトのクラウド化を促進。クラウドへの全員参加を促す役割を担ってきた。
一方で、オンラインサービスグループ担当当時は、Bing、Xbox、Officeなどをサポートする世界最大級のクラウド基盤の開発を統率。Azureプラットフォームのオープン化にも貢献し、HadoopやLinuxのサポート、GitHubへのコード掲載、そして、node.js、PHP、Rubyなどの他言語のサポートなどの変革を成し遂げたという。
このときナデラ氏は、マイクロソフトがスタートアップ企業を顧客として獲得する必要性や、マイクロソフト製品の開発者以外にもアピールすることが必要であると判断し、シリコンバレーや他の都市に出向き、スタートアップ企業やベンチャーキャピタルと面談。マイクロソフト製品を売ることよりも、彼らの意見を聞き、何が彼らにとって重要であるかを知り、行動に移したという。
さらに、2011年にサーバー&ツールビジネス事業を統率した際には、売上高を22パーセント、利益を33パーセント増加。マイクロソフト史上、最も急速に成長し、高い利益率を達成したビジネスのひとつとした手腕を持つ。
そして、社内での人材育成にも定評を持つ人物だ。
ナデラ氏はインドのハイデラバード出身。マンガロール大学で電気工学の学士号を取得後、ウイスコンシン大学で情報科学の修士号を取得し、シカゴ大学ではMBAを取得。マイクロソフトに入社前は、Sun Microsystems の技術部門に所属していた。技術畑出身のCEOということになる。
ナデラ氏のCEO就任は何を意味するか?
今回のナデラ氏のCEO就任は、マイクロソフトにとってどんな意味をもたらすのだろうか?
ひとつはマイクロソフトが、これまでの路線を踏襲する姿勢を明らかにしたという点だ。
昨年夏にスティーブ・バルマーCEOが退任を発表して以来、次期CEO候補には、米フォードのCEOであるアラン・ムラーリー(Alan Mulally)氏や、元マイクロソフトでノキアCEOを務めたスティーブン・エロップ(Stephen Elop)氏などの名前があがっていた。
もし、マイクロソフトがこれまでの仕組みを壊し、大胆な改革を進めるのであれば、ムラーリー氏のような異業種からの人材が適していただろう。また、路線変更を進めるのであれば、エロップ氏のように、直近で外部企業で経営に携わった経験者が適している。しかし、22年の経験を持つナデラ氏が次期CEOに指名されたということは、これまでのマイクロソフトの路線を踏襲することを明確に示したものだといえる。
先ごろ、マイクロソフトが発表した2013年10月〜12月の同社第2四半期決算は、四半期売上高としては過去最高となる245億1900万ドルを記録。そのうち半分となる126億7000万ドルはエンタープライズ領域のビジネスであり、ナデラ氏が担当していた領域が含まれる。また、デバイス分野では、Surfaceシリーズの売上高が7〜9月の2倍以上となる8億9300万ドルに達し、新たに発売したXbox Oneは390万台を出荷。Xboxシリーズ全体の販売台数は740万台を達成。昨年、スティーブ・バルマーCEOが掲げたデバイス&サービスカンパニーとしての道を着実に歩み始めている。
この方向性をさらに加速する人物としては、候補者の中で、長年のマイクロソフトでの経験を持つナデラ氏が最適だといえよう。
2つめにはクラウドビジネスをより加速するための体制を整えたという点だ。
ナデラ氏が昨年までプレジデントとして担当していたサーバー&ツールビジネスでは、クライアントサーバー型ソフトウェアを、クラウド基盤のサービスへと移行するための指揮をとってきた。
ナデラ氏のCEO就任は、この体制をさらに加速するといっていいだろう。

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