ポルシェのアイコンとも言える伝統モデル「911」。世界のスポーツカーの指標と表現されることもあるこのモデルに、初めてハイブリッドが追加されました。こう聞くと「ついに911にも電動化の波が……」と思うかもしれませんが、新メカニズムであるT-hybridは速さのためのハイブリッドなのです。その実力を千葉にあるポルシェエクスペリエンスセンター東京で試してきました。
ドイツのコースで「マイナス8.7秒」を実現した
ハイブリッドシステム
今回試乗したのは「911 GTS」。911のラインアップの中でも中間に位置するモデルで、「やや辛口」な位置づけのモデルとなっています。新メカニズムであるT-hybridが搭載されたのはこのGTSからで、そのあとに登場した「911 ターボ S」にもT-hybridが採用されています。
新メカニズムのT-hybridとはどんな特徴を持っているのか? 一言でいえば「速く走るために開発されたハイブリッド」です。ハイブリッドと名前にあるとおり、400Vのリチウムイオンバッテリーをフロントに搭載し、トランスミッション(PDK)に組み合わされたモーターは54PSのエクストラパワーと300Nmのトルクを発生します。
そして、WEC(FIA世界耐久選手権)を戦う「919 hybrid」由来の技術である電動排気ターボもT-hybridの中核といえる技術です。これは排気流からエネルギーを得て、電動モーターでタービンを回して過給するシステムなのです。ブーストを緻密にコントロールできるためウエイストゲート(ターボの過給圧を抑えるシステム)はなく、ターボラグとは無縁の素早いレスポンスを実現しています。なお、エンジンのみで485PS、システムで541PSの出力となっています。
これらの技術により「サーキットで速い」ハイブリッドシステムを目指したT-hybridは、ハイブリッド技術の採用ありきでパッケージが構成され、エンジンもよりコンパクトな設計となっています。このような工夫により、重量増は進化前の911 GTSから+50kgにとどめられています。「サーキットで速い」は数字でも実証しており、ニュルブルクリンクでのラップタイムは-8.7秒短縮の7分16秒934でした。
なお、ハイブリッド車でよくある「モーターのみの走行」はこのT-hybridではできません。走行中にバッテリー容量がゼロになることも基本的になく、(直線をずっと全開などごく一部の特殊例を除くそうです)ハイブリッドシステムがただの重たいウエイトになることはないのです。まさに速く走るために構築されたシステムと言えます。
いい意味でモーターを感じさせない制御
そんなハイテクなハイパフォーマンススポーツカーである911 GTS。今回の試乗車には、ニュルでラップタイムを更新した際に装着されていた純正オプションの「エアロキット」を装備。実際に乗ってみるといい意味で「ハイテク」は感じさせません。
300Nmのモーターが電動車らしく瞬間的に最大トルクを生み出す独特の加速を見せるかと思いましたが、停止状態からアクセルを全開にしても、エンジンスポーツカーらしい加速フィーリングを見せます。
また、トルクの出方が自然なのはコントロール性の高さにも寄与していました。水がまかれたスキットパットではドリフトコントロールがしやすいトルクの出方で、不意にトルクが出過ぎてスピンモーションへ……といったことはありません。このトルクの出方は狙っていたそうで、電動車的ではなくエンジン車的なフィーリングを目指したとのこと。
もちろんモーターの良さを活かしていて、低回転からもトルクフルな加速を見せますが、ドライバーを不用意に驚かすようなトルクフルさではありません。
T-hybridは現代ツインチャージャーだ!
そして、アップダウンのあるハンドリングトラックでの試乗。ここでT-hybridの良さをさらに感じることができました。連続するコーナーではスロットルに素早く反応して、コチラが想像した通りのトルクを出してくれて、上りながらの連続コーナーもスムーズにこなしてくれます。
しかし、このトラックでの新たな発見は中回転より上の領域でした。中回転から高回転域まではターボカーらしいパワーの出方を見せてくれました。モーターで低回転はトルクフルに、高回転で伸び感のあるパワー感、そして全域でアクセルに対してレスポンスよく反応してくれるT-hybridは、現代版ツインチャージャー(ターボとスーパーチャーチャーを装備すること)といった乗り味でした。
911らしくブレーキの安定性とコントロール性はバツグンで、荷重の移り変わりも手に取るように分かるため、手に汗握ることなく安心感を持ってハイペースで周回することができます。コーナーリングも安定していて、50kgの重量増をネガに感じさせません。緊張感なく速いのがニュルでのラップタイム短縮に大きく貢献しているのでしょう。
何よりアクセルをはじめ、ブレーキ、ステアリング、すべての操作系が緻密で、そのグラデーションがきめ細かいのがポルシェらしいと感じました。最新のテクノロジーで911を速くしつつも、911らしい伝統のドライブフィールをしっかりと体現しているモデルとなっていました。
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