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KDDIの事例でわかるオープンイノベーションでスタートアップ、大企業双方が事業価値を最大化するためには

CEATEC 2023特許庁スタートアップ支援班主催セッション「大企業とスタートアップがうまく連携するために意識すべきポイントとは?」

特集
STARTUP×知財戦略

提供: IP BASE/特許庁

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その2:リスクヘッジではなくスピード重視で!

 大企業とスタートアップでは、リスクの容認度や意思決定のスピードはまったく異なる。大企業側の保守的な体質や複雑な意思決定は、スピード感が阻害される要因となりがちだ。

 出澤氏は、「スピード感の違いはかなり感じます。私は自分が社長なのでその場で決められますし、欧米ではその場で決済するのがグローバルスタンダードのようです。日本の大企業は担当者が持ち帰るケースが多く、予算を取るまで半年かかることも」と話す。

 欧米企業は、最初の交渉から決定権のある執行役員クラスが出席するのも大きな違いだろう。

 川名氏によると、KDDIは新規事業創出のための専門組織があり、スピーディーな判断が可能とのこと。「企業がオープンイノベーションをどれだけ重視しているかによっても対応の違いがあります。KDDIの場合、例えば、スマートフォンを売っているだけでは市場が広がらない。通信を使っていろいろなビジネスを作ってもらうためには、外部の人や技術をどんどん導入しなければなりません」と同社がオープンイノベーションに注力する理由を説明した。

 井上氏からは、大企業が意思決定スピードを改善する方法として、①KDDIのように専門組織を作る、②契約期間を分割して予算を確保しやすくし、プロジェクトを先に進められるようにする、という2案を提示した。

 ただし、②の方法では、契約を分割すると次の契約につながらずにプロジェクトが途中で終わってしまう可能性もある。これを回避する方法は、OIモデル契約書を参考にしていただきたい。

 もちろん、スタートアップ側の都合でプロジェクトが頓挫するケースもある。

 川名氏は、「スタートアップ側のビジョンが変わり、引き上げたケースもあります。133社(2023年5月29日時点)の出資先のうち、これまでに上場したのは2社。イグジットしたスタートアップのうち、子会社になった会社もあります。何をゴールに設定するのかは大事」と大企業側の心がまえを語った。

その3:「双方の事業価値の総和の最大化」を判断基準にしよう

 特許庁が公開する「OIモデル契約書」では、「双方の事業価値の総和の最大化」を基本理念としている。しかし、大企業は共同研究などの費用負担をすると、その成果を自社のものと主張しがちだ。また、スタートアップに対して、大企業の競合他社との取引を制限するケースもまま見られる。

 井上氏は、「契約の場面では、認識の相違をすりつぶして、合意してから契約するのが理想ですが、大企業とスタートアップは違いが大きすぎて完全な合意は難しい。そのため、ある程度のところで抽象化して、双方が条件を飲むことになります。抽象化することで将来、その解釈でもめるリスクがありますが、その際の共通の判断基準として、『双方の事業価値の総和の最大化』と、1箇条目の『ビジョンとゴールのすりあわせ』がいずれ生きてきます」と、契約における4箇条の重要性を説明する。

 KDDIでは、共創から生まれた知財はすべてスタートアップに帰属させているので、もめることがないそうだ。川名氏は、「スタートアップ支援を始めた当初はNDA(秘密保持契約)すらありませんでした。契約よりも人とのつながり、信頼関係のほうが大事だと考えています」と話す。

 とはいえ、KDDIのようなケースは稀だろう。出澤氏は「KDDIさんからはオープンイノベーションのエコシステムをつくる、という気概を感じます。でも、スタートアップ側はそれに甘えちゃいけない。大企業に対してもリスペクトを持ち、お互いにフェアであることが大事だと感じています」と述べた。

 また井上氏から、スタートアップが大企業の競合他社との取引でもめないようにするための策として、「スタートアップは横展開して成長するのが基本ビジョン。それを縛るのは将来を阻むことであり、VCからの資金調達にも影響する。他社競合との取引を制限するのであれば、そのぶんの保証を対価として設定すればスムーズに解決する」とアドバイスした。

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