中国のモノ作りの現場の話題といえば、以前当連載で紹介した、富士康ことフォックスコン工場での連続飛び降り自殺(関連記事)のほか、先月から今月にかけて日系自動車メーカーの工場を中心に発生した、中国全土的な待遇改善を求めたストライキ(中国語で“罷工”。発音は“バーゴン”)もまた話題だ。
この問題は日中のメディアだけでなく、「ニューヨークタイムス」やイギリスの「フィナンシャルタイムス」など第3国のメディアでも取り上げられている。その引き金となったであろう、中国南部にある広東省佛山にある南海ホンダのストライキを、IT的側面から考える。
中国語のサイトを対象に、事件のあった「南海ホンダ ストライキ」(南海本田罷工)で検索すると、この事件絡みの情報が多数表示される。ただし「百度中国」で検索すると、「根据相関法律法規和政策,部分搜索結果未予顕示」(法律法規と政策から一部の検索結果は表示されません)という、Google中国撤退時に「Google撤退真相」で検索した結果と同じ注意書きが表示される。
百度中国のナレッジコミュニティ「百度知道」で検索しても、不自然なほど何も表示されない。中国当局もこの問題にナーバスであり、都合の悪い情報は開示したくないという事情が伺える。中国本土から撤退し、香港にサーバーを置くGoogleでは、簡体字で検索してもこの類の注意書きは表示されない。
ストライキは反日・抗日運動!?
中国当局がナーバスになる点、それに連鎖反応のようにホンダの工場だけでなく、遠く離れた中国北部の天津のトヨタの工場までもストライキが起こるという点から、日系企業を狙い撃ちしたものではないか、反日ストではないか、という噂も現場では流れている。
ただ、ホンダでのストライキの後で、上海近郊の台湾企業の工場でも2000人規模の待遇改善のストライキが出たほか、北京近郊の韓国企業の工場でも出ているので、少なくとも日系企業のみを狙い撃ちにして、ストライキを放任・容認したのではない。
それに変化の激しい中国では、世代交代が激しく反日世代は既に過去の世代と認識されている節が感じられる。若者自らが70后(1970年代生)、80后(1980年代生)、90后(1990年代生)と世代分けし、なおかつ10年上の世代ですら「時代遅れの世代」だと切り捨てる。
2005年の反日デモの主人公は70后か、70后に近いアラサーの80后であり、一方で今回の工場内における主人公達は四捨五入して20歳の若きブルーワーカーであり、前者は反日色が強く、後者は親日色が強い。反日デモの主役達と今回のストの主役達の日本への感情や、そもそもの価値観はかなり異なると言っていい。
ストライキで団結した労働者のほとんどは、日本が嫌いだから日系企業でストライキをして困らせようとしたのではなく、本当に待遇改善が目的だろう。もちろん30代の70后も少数派の反日な80后(ないしはさらに親日な90后)もインターネットを利用しているので、少数派だがそうした人々による「反日スト」ととらえるブログや掲示板の書き込みもあるにはある(そしてそうした書き込みは“よろしくない書き込み”として消されている)。
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