米国のトランプ大統領が、貿易相手国の関税率などに基づいて米国の関税率を引き上げる相互関税を発表したことで、世界のマーケットが揺れている。
トランプ大統領が相互関税を発表したのは、2025年4月2日のことだ。日本には、24%の関税を課すという。日本時間の3日早朝にトランプ氏が相互関税を発表すると、世界のマーケットは軒並み大幅に値を下げた。発表前の4月2日、日経平均の終値は3万5725円だったが、3日と4日は続落し、2日間の取引で日経平均は1945円値下がりした。
無人島を含め、世界中の国や地域に相互関税を課すトランプ政権の方針は、互いに高い関税を課す貿易戦争の引き金になるおそれがあり、世界の貿易の縮小につながりかねないと見られている。
テクノロジーに関わる分野では、すでに目に見える影響が出始めている。4月5日未明には、任天堂が米国で新型ゲーム機Switch 2の事前予約の開始を延期すると、メディア各社が報じている。
Switch 2で表面化した甚大な影響
4月2日夜は日本のゲーム業界にとって、お祭りのような日だった。任天堂が午後10時から、SNSで生配信をして、6月5日にSwitch 2を発売すると発表していた。米国では4月9日から予約の受付を開始するとしていた。
しかし、その約7時間後、トランプ大統領が相互関税を発表。Switch 2の予約延期は、明らかに「トランプ関税」が影響したと受け止められている。米メディアCNBCは、米国の任天堂の担当者が取材に対し、「関税や市場環境の変化による潜在的な影響を評価するため」と述べたと報じている。CNBCによれば発売日に変更はなく、米国での予約開始時期も今後公表する方針だという。
任天堂のサプライチェーンについて多くの情報は公開されていないが、現行機種のSwitchについては主に中国で組み立て、2019年ごろから一部をベトナムに移管していると報じられている。
任天堂は、米国でのSwitch 2の販売価格を449.99米ドルと発表していた。しかし、トランプ政権は、ベトナムに対して46%、中国に34%の関税率を適用するとしている。この関税率を踏まえると、米国内でのSwitch 2の販売価格の妥当性には疑問符がつく。こうした状況から、任天堂は「延期」という決断に至ったのだろう。
「関税がいやならアメリカにおいで」は有効か
トランプ政権が相互関税を貿易相手国に課すおもな狙いは、「製造業の復活」だ。企業は、技術的な水準に大きな差がないなら、賃金の安い国を製造拠点に選ぶ。しかしトランプ政権は、高い関税を課すことで、米国で製品を売りたいなら、米国で製造するよう世界の企業に促す狙いがあるようだ。
仮に、ゲーム会社がゲーム機を中国やベトナムで組み立てず、米国で組み立てる場合、コストの増加に見合った効果が得られるのだろうか。
日本貿易振興機構(JETRO)は、企業が各国に拠点を設立する場合、どのくらいのコストがかかるかを調査しており、「投資関連コスト比較調査」というエクセルのファイルを公表している。調査の時期、賃金に含まれる手当などが異なるため単純に比較はできないが、日本、米国、中国、ベトナムを並べてみよう。いずれも米ドル建てで、ワーカー(一般工職)の月給水準だ。
- 東京:2024ドル
- 米サンフランシスコ:4858ドル
- 米ローリー:3728ドル
- 中国・深セン:415ドル
- ベトナム・ハノイ:278ドル
米国のローリーは、ノースカロライナ州の都市だ。調査対象の米国の都市の中では給与水準が低く、サンフランシスコと比べて1000ドル以上低い。しかし、そのローリーであっても、ベトナムのハノイの10倍以上の月給を用意しなければ、労働力は確保できない。米国の賃金や物価の水準を考えると、企業が関税を回避したいから米国に拠点をつくろうと判断するのも苦しそうだ。
半導体は適用除外

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