今月になって、何度中国人の知人に「日本企業はなんで自殺者が出るほど働かせるのだ?」と言われたことか。
なんのことかといえば、今年に入って13人も飛び降り自殺者(死者9人、重傷者2人)が出た、深セン(関連記事)に本部のある中国名「富士康」という台湾企業(台湾では「鴻海集団」)のこと。
電子機器受託生産(EMS)では世界最大、中国大陸内において輸出額で4年連続で首位と、「世界の工場中国」を代表するIT工場系企業だ。中国でIT系のモノ作りに片足を突っ込んでいる人なら、「iPad」をはじめとしたApple製品や、「Wii」「Xbox360」などのゲーム機の製造を受託している企業として知っているだろう。
また英語名は「Foxconn」であり、つまりは日本でも流通しているマザーボードやビデオカード(関連サイト)を作っているメーカーでもある。
そもそも過去には、DELLやHPをはじめとした大手PCメーカーにマザーボードなど各種パーツのOEM供給を行なってきた。近年は単純な組み立て企業から、開発もできる企業に移行しようとするのはこの企業もしかりだが、特許数で華僑系企業ナンバー1を記録するなど、口だけではなく実行に移せる企業である。
富士康(Foxconn)で、13件もの飛び降り自殺が今年に入って半年も経たずに起きたが、こと5月は6日、11日、14日、21日、25日、26日、27日と、異常なまでのハイペースで事件が起きている。これだけの異常事態になるとネットメディアや雑誌は注目するのはもちろん、Appleを始め、HPやDELLも同社深セン工場の調査を始めた。また黄門様的メディアのCCTV(中国中央電視台)までが特集を組んで紹介した。
これで万事解決のはずなのだが、自殺者は後を絶たず、肝心要の原因はぼかされて報道されているように思う。深セン市政府は26日、政府当局が行なった調査結果を「工業化、都市化、近代化が急速に進む中で発生した特殊な問題で、その原因は深く、状況は極めて複雑」と発表した。
さらに「自殺者は80年代、90年代生まればかりで、甘やかされて育ったため、様々な圧力で潰れてしまった」「社会レベルからみれば、社会サービスや、思いやり、援助が足りなかったのが原因」などとし、対策も講じられていたのだが、その翌日にまた1人が尊い命を自ら絶った。
確かに一人っ子世代は甘やかされて育っていて、その中でも若ければ若いほどその度合いは強い。時間が経ち、富士康の労働者の給与明細を入手し報道するメディアも出たが、それを見ても特別賃金が安いわけではない。中国全土にありとあらゆる低賃金の工場がある中で、富士康だけから自殺者が続出するのは、社会的背景だけでなく、富士康の問題のような気がしてならない。

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