開発の発端:24時間レースでの「待ち時間」への不満
2025年のスーパー耐久岡山大会において、モリゾウ氏率いるTOYOTA GAZOO ROOKIE Racingがミッドシップ化した「GRヤリス DAT」で参戦した。ミッドシップのヤリスは以前から噂されていたのだが、シリーズ後半になってのデビューとなった。しかし、なぜヤリスをミッドシップ化してレースに出ようと考えたのか。開発の中心的存在の佐々木雅弘選手に聞いてみた。
「ことの発端は、2018年の富士24時間レースなんです。あのレースは、デビューしたてのGRヤリスで参戦しました。レース自体は順調で、ポールポジションも取ったし優勝もしました。リザルト自体は完璧だったんです。でも基本がFFベースの四輪駆動車だったので、どうしてもアンダーステアが出てしまうんです。もちろんよくできた四輪駆動システムだったし、四駆として考えればよく曲がりました。それでも最後には、どうしてもアンダーステアが顔を出してしまって……」
四駆である以上、ある程度のアンダーステアは仕方のないものと言うのが自動車の常識では? と問いかけると「もちろんそうですし、ライバル車と比べてもはるかに回頭性はよかったです。それでもモリゾウ選手に「コーナリング中、ハンドルも切れなければアクセルも踏めない。何もできない時間が長いよ。なんとかアンダーステアの出ないヤリスは作れないの」と言われたんです」
モリゾウの要望と「意のままに操る」ための決断
「その頃のモリゾウ選手は、経験も積んでかなりのドライバーになっていたんです。そして“ドライビング中は、すべてをコントロールしたい”とも言われたので、まず駆動力をうしろに持っていけばアンダーステアが消えて意のままに操れる車になりますよ、と進言したんです。すると“じゃあ作ろうよ”ということになりプロジェクトが始まりました」
エンジンを「ひっくり返す」というアイデア
そうなると、フロントエンジン・リア駆動のFRレイアウトを選ぶのが通常の流れなのでは? 「僕も最初はFRをイメージしていたのですが、今のトヨタにはそのシステムがないんです。そうなるとMRシステムを新たに作らなければいけません。それは大ごとなので、GRヤリスのエンジンと駆動システムをひっくり返したんです」
確かにFFのシステムを、前後に180度回せばRRのレイアウトになる。ワンオフであればシステムを新しく開発するより、はるかに低コストでできるだろう。ただ、本当にそんなことが可能なのだろうか。
「ミッドシップ化の話が出てから、信じられないくらい早いタイミングで試作車ができました。しかもすこぶる良いデキだったんですよ。もちろんGRヤリスのシステムを、単純にひっくり返しただけでは成立しません。ひっくり返せばうしろから、エンジン、リアアクスルシャフトというRRのレイアウトになってしまいます。エンジンの回転も逆回転になりますし。そこで反転キットを付けて、うしろからリアアクスル、エンジンの順にしてミッドシップ化したわけです」やはり、簡単にひっくり返すだけでは成立せず、大手術が必要だったと言うことだ。
FF四駆をMR四駆にするのだから、駆動部分だけで済むはずもなく、車体にも大きくメスが入ることになる。いかに GRヤリスベースとは言え、新しく車を作る作業に等しい。それを1回の試作で、良い感触まで持ってきたのだからさすがトヨタの技術力だ。とはいえ、そこは入り口であり到着点ははるかに遠い。
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