スーパー耐久2021レポート第7回

グランツーリスモからプロレーサーへ! スーパー耐久のデルタ田中代表が冨林勇佑にかける想い

文●吉田知弘 写真●加藤智充 編集●ASCII

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 2021年のスーパー耐久で、ST-3クラスの2年連続チャンピオンに輝いた39号車「エアバスター Winmax RC350 TWS」。1年を通して、安定した走りで強力なライバルに打ち勝つ姿を何度も披露してくれた。

 そんな39号車でAドライバーを務め、予選・決勝とも堅実な走りをみせていたのが、グランツーリスモの世界チャンピオンであり、実車でのレースは2年目となる冨林勇佑選手だ。

冨林勇佑選手

eスポーツからリアルのプロレーサーへ
それが珍しくない時代が来ている

 “eスポーツ出身者がプロレーサーになる”その想いを胸に、努力を続けている冨林選手のレース参戦をサポートしてるのが、TRACY SPORTSとタッグを組んでS耐を戦っている「DELTAモータースポーツ」の田中延男代表だ。2021年の第5戦鈴鹿でST-3クラス2連覇を決めた際、田中代表は「冨林をプロレーサーにしたい」と力強く語っていた。

 田中代表は「僕は決してカートを軽視しているわけではないですが、正直なところ今までの日本って、小さい頃からカートに乗せて、全日本のカートに出て、レーシングスクールに入って……。そうしないとプロになれないという考えみたいなものがあったと思います。eスポーツから誰かがプロになることがなければ、ずっとこの状態が続くんじゃないかと」と語る。

DELTAモータースポーツ 田中延男代表

 レーシングドライバーは今も多くの子どもが憧れ、夢見るものだが、実際にプロになろうとするとそこにかかるまでのコストが大きな障壁となってしまう。田中代表が言うように、実際にカートである程度経験を積まないとその先のステップに進めないというのが現状だ。昔はストリートからレーシングドライバーになることもあったが、今の時代、その方法は望めないだろう。

 だが、eスポーツ出身者である冨林選手がリアルレースで活躍することで、“eスポーツの経験を経てプロレーサーになれる”という可能性を見いだせるのではないかと考えている。

リアフェンダー付近にはASCII.jpのロゴも

 「たとえば、中嶋 悟さんが日本人ドライバーとしてF1の扉を開けて、その後に何人ものF1ドライバーが続いていったように、誰が最初の扉を開ければ、そこに続く人が現れます。ただ、最初の扉を開けることほど、苦しいものはないと思います。F1でいうと中嶋さんもそうだったかと。ここで冨林がeスポーツ出身者として最初に扉を開ければ、そこに続く人や子どもたちにも夢を与えられると思います。だから、今は冨林をどうしてもプロにしたいと思っています」と田中代表は熱く語る。

 「それに、プロのレーサーになりたいけどお金がない……というのは、よく聞く話ですが、カートをするお金はないけど、シミュレーター(ゲーム)なら買える。そういう家もあるかもしれませんしね」。田中代表はeスポーツのハードルの低さにも注目している。

 ただ、現時点ではカート経験者の方が“レースの経験数”という部分で差が出てしまうのは確かだ。田中代表と冨林選手との間で「その差をeスポーツで埋めるために何をすべきか?」という、試行錯誤の日々は続いているという。「冨林はS耐と86/BRZレースで、合計20レースくらいしかしていないですが、カート上がりの子たちはすでに1000レースくらい経験しています。その差をeスポーツで埋める……埋めていけるだということを、見つけていかないといけません。やっていることは過酷ですけど、挑戦していきたいと思っています」と田中代表は熱く語る。

 もちろん、冨林選手自身も「自分が最初の扉を開けなければいけない」という使命を持って、リアルレースに参戦している。

 同じグランツーリスモのチャンピオンでも、ルーカス・オルドネスやヤン・マーデンボローといったレーシングドライバーを排出した「GTアカデミー」と、eスポーツは立ち位置が違う。GTアカデミーはプロのレーシングドライバーを育てることを目的としており、そのゴールにはリアルレースでも通用するドライバーが設定されている。eスポーツはあくまでもバーチャルの中での戦いだ。だが、ほかのeスポーツの競技(ゲーム)に比べるとレースゲームはリアル指向のため、実際に練習で使っているプロもいるほど。eスポーツからリアルのスポーツにステップアップも十分もありえるだろう。

道なき道を突き進む冨林選手の覚悟

 冨林選手は「eスポーツ上がりというのは賛否両論あります。もちろん、応援してくださる方もたくさんいますけど、まだ疑いの目というか“本当はどうなの?”と思われている方もたくさんいるはずです」と、まだ世間の目が厳しいことは認めつつも「ですが、少なくとも僕が今お世話になっているTRACYSPORTSさんや、エアバスターさん、デルタさんとかは、僕がeスポーツから上がってきていることに対して、良く思ってくださって、全力でサポートいただいていますし、本当にいい環境で走らさせていただいています。全員が自分の味方でいてくれているからこそ、できることであると思います」と周りの環境に感謝していた。

 「そういう意味では、僕みたいな経歴の人は少しずつ増えてはきていますけど、まだ日本人で本格的にレース参戦しているというのは、僕しかいない状態です。だから僕がもっと活躍して、いろんな人に認めてもらわないと、僕を見てついてきてくれている他の人たちにも夢を与えられないと思います」と、先陣を切っている責任感を強く感じているようだ。

 「こうして徐々に結果を残していくことで、周囲が“eスポーツをやっていると実車でも役立つんだ”とか“eスポーツをきっかけにプロレーサーを目指すというのもアリだね”というふうになってくれるとうれしいです」冨林選手はレース界のインフルエンサーになれるかもしれない。

 激戦のスーパー耐久 ST-3クラスで2年連続チャンピオンになったのは、間違いなく実力がある証拠なのだが、冨林選手は挑戦の手を緩めるつもりはまったくない。目指すは日本のトップカテゴリーであるSUPER GTや、海外の有名レースだという。

 「日本で言えばSUPER GT、海外で言えばル・マン24時間とか、ニュル24時間とか……、そういうところで活躍できるトップドライバーになりたいなと思っています。そういう意味で、2021年のチャンピオンはめちゃくちゃうれしいですし、2連覇というのも誰しもができることではないです。だけど、ここで僕自身が満足することなく、この結果を誇りに思いながらも糧にして、もっと上を目指していきたいです」(冨林選手)

 “eスポーツ出身者がプロレーサーになる”。その大きな目標を達成するため、冨林選手と田中代表の挑戦は、まだまだ終わることはない。

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