2010年のキーワードは、「リスクとってみようよ!」
中野 今後はどのような人材が求められるのか。Web業界は変化が激しくて、Webサイトのデザインの話でも、昔はPCサイトと、携帯サイトをつくればよかった。でもいまでは、解像度は小さいけどCSSにもJavaScriptにも対応しているスマートフォンも無視できない。たとえば、いまドコモショップに携帯電話を買いに行くと、一番安いのがグーグルのAndroid 携帯で、その次が東芝のT-01Aです。いわゆる携帯電話の新機種はスマートフォンよりも高い値付けになっている。スマートフォンを販売したいという戦略からこの価格になっているはずで、このような状況の変化にいち早く気づかないといけない。
諏訪 たしかにWeb業界は変化が激しく、知識にも流行があります。そういう意味で、Web業界の人たちにアドバイスするとしたら、専門知識はある程度必要ですが、それに全精力を傾けるのは得策ではありません。お勧めなのは、(1)プロジェクトマネジメント、(2)ソリューション営業、(3)マーケティング。この3つは普遍的な能力なので、Web業界の人は、この3つのうちどれかは、軸として持っていたほうがいいと思います。
中野 変化の激しい時代だからこそ、人材は重要です。上司であれば、前例を踏襲するのではなく、自分で切り開いていく能力が必要ですね。その一方で、部下としては、変化に対応できる上司の部下でいた方が得です。だから、上司をきちんと操ることも重要です。上司と部下の「接し方」は、ますます大事になってくるでしょうね。
とはいえ、いまはミリオンセラーも出にくいし、世代を超えた共通の話題もない。日本人のまとまりが壊れてきていると思います。「あうんの呼吸」には頼れない。他人に対して、「こういうときは、必ずこうするよね」みたいな常識は、期待できません。そういう意味で、うちの編集部では、私が差出人のメールは、CCに編集部のメーリングリストも入れています。私が社内外の人にどういうことを言ってるか、編集部の人たちに必ずわかるようにしている。
諏訪 情報共有を徹底しているわけですね。それはすごいですね。
中野 ふだんからそうすることで、部下から見えないところで私が誰に何を言ってるかわかるようにして、証拠も残しておきます。電話なら、話している内容が聞こえるので、隣の人が何をしているかわかりますが、メールだとそれがまったくわからない。だからあえてCCに入れるわけです。それが現代的な意味での「あうんの呼吸」を生み出せばいいな、ということです。ただ、メールには証拠が残るので、よく考えて一貫した発言をしないと、かえって混乱のもとになります。ある一定のロジックに基づいて発言しなければいけない。変化が激しいからこそ、そういうことを意識しながらやることが、重要だと思います。
諏訪 2010年は景気は少し上向きになりそうなので、リスクテイクの年になると思います。いままではリスクヘッジで、事なかれ主義で逃げていれば、正社員でぬくぬくと生きていくことができたかもしれません。いままでは先に海に飛び込んだ人を見てたんだけど、本当に自分の船が沈みそうだというのが、今後は増えていくと思います。来年は、そこらへんの境目の年で、「リスクとってみようよ!」というのが、キーワードになると思います。
2009年は、 Web業界やWeb 広告業界で活躍し、会社を辞めて独立した人が、結構多かった年でした。2010年は彼らが何か新しいビジネスや、新しいサービスをつくるのではないかと期待しています。サービス化が進展する中で、いいサイトがつくれる人、イコール、いいサービスがつくれる人です。ビジネスチャンスは多いはずです。Webに強い人が、来年景気が上向きなのをつかまえて、リスクをとりながら新しいビジネスをどんどんはじめてほしいですね。そうなれば日本も少しは安泰ではないかと。座して死ぬより、攻める人たちが増えればいいな、と思います。
中野 来年の大河ドラマは坂本龍馬だそうですから、Web業界にもリスクテイクできる龍馬がたくさん出てきて欲しいですね。
諏訪光洋氏
株式会社ロフトワーク代表取締役社長。クリエイティブの新しい形の流通を目指しクリエイターネットワーク「loftwork.com」を構築し、2000年に株式会社ロフトワークを設立。loftwork.comを活用し、Web開発、コンテンツ制作、映像制作など、幅広く信頼性の高いクリエイティブソリューションを提供。ウェブエキスパートのための情報ポータル「WebExpert」の運営も手掛ける。