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10年先を見据える技術と、目の前の事業目標 大企業とスタートアップはどう組むか

CEATEC 2026 セッションレポート:ヤンマー×ミライセンス創業者が語る共創の条件

連載
ASCII STARTUP TechDay 2026

 2026年10月14日、幕張メッセで開かれた「CEATEC 2026」で、ASCII STARTUPのセッション「『先端技術×製造業』が創る新産業のリアル」が行なわれた。本セッションは、2026年11月30日にASCII STARTUPが主催する「ASCII STARTUP TechDay 2026」に先駆け、ディープテックと製造業の連携による社会実装の可能性を議論するものだ。

 スタートアップ支援から大企業に転じたヤンマーホールディングス株式会社の真島隆大氏と、研究者として起業し大企業のグループ入りを経験した国立研究開発法人産業技術総合研究所の中村則雄氏が登壇し、ディープテックの社会実装に欠かせない「時間軸のすり合わせ」、「開発スピード」、「担当者の熱量」を語り、ASCII STARTUP副編集長の鈴木亮久がモデレーターを務めた。

エンジンの次の100年をつくる ヤンマーが挑む事業変革

 創業から100年以上、小型ディーゼルエンジンを軸に成長してきたヤンマーは、2040年を見据えた事業変革に取り組んでいる。動力源の電動化などが進めば、エンジンを起点とする成長モデルが続かなくなる可能性があるためだ。 

 掲げる目標は、2040年までに新たな事業で2000億円を創出すること。その手段として、既存事業の変革、M&Aによる成長、新規事業開発の3つを位置づけている。

 真島氏は、目標の規模からはM&Aが現実的に見えるとしつつ、将来も成長を続けるには、アグリ、マリン、エネルギーシステム、建機、エンジンなど、既存の7つのビジネスユニット自身が変わることが重要だとし、「私自身、入社前は『採用向けのポーズかな』と半信半疑な部分もありましたが、社長自らが本気で変革を主導している会社です」と説明した。 

ヤンマーホールディングス株式会社 事業開発部 プロジェクト推進部 営業推進G 課長 真島隆大氏

 同社は2021年にCVCのヤンマーベンチャーズ株式会社を設立するなど、スタートアップとの連携にも取り組んでいる。真島氏が所属する事業開発部も、既存事業の枠を超えた新たな成長モデルの創出を担う。

触覚をデジタル化 研究成果を大企業の力で社会実装

 中村氏は、自らの研究成果をもとに起業した株式会社ミライセンスの経験を紹介した。脳科学者の中村氏が研究してきたのは、人間の触覚をデジタルで再現する技術だ。物理的に力を加える装置の小型化には限界がある。そこで着目したのが、脳の錯覚を利用する方法だった。

「物理的に強烈な力を再現しなくても、脳を錯覚させて『柔らかい』、『押された』と感じさせれば良いのではないかと再定義したのです」

 この発想から、振動によって力感や触感を生み出す技術を開発。押された感覚(圧覚)、表面の手触り感(触覚)、引っ張られるような手ごたえ感(力覚)を「三原触」として扱い、さまざまな感触をデジタルで表現する技術を確立した。

 ミライセンスは2014年の創業から5年で株式会社村田製作所に買収され、グループ会社となっている。ミライセンスが開発し、事業化してきた技術と体験サービスに、村田製作所の高性能化と量産化技術や品質保証、運用体制が加わり、大規模かつ長期間の安定した体験提供へと発展した。2025年の大阪・関西万博では、触覚技術を活用した「ふしぎな石ころ eChorb」を提供。手のひらで感じる触覚を通じて来場者を誘導する、新しい体験を実現した。

 中村氏は、スタートアップと大企業のように異なる合理性を持つ者同士が、互いの世界を理解し、従来の問いや価値基準を転換することで、新たな価値軸を生み出すことが「新結合」の本質だと考えている。

国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究戦略本部 企画部 連携推進企画室 社会実装加速・スタートアップ推進グループ 中村則雄氏

10年〜20年先の技術と、目の前の事業目標 時間軸のズレをどう埋めるか

 ディープテックの社会実装には、長い開発期間と多額の資金が要る。では、そこに製造業の力がなぜ必要なのか。真島氏は「顧客接点」、「アフターサービス」、「品質・信頼性」の3つを挙げた。

 製造業の大企業は、長年の事業を通じて顧客との関係、販売と保守のネットワーク、品質保証の仕組みを築いている。スタートアップがゼロから整えるのは難しい。

 ただし、大企業にも事情がある。支援側からヤンマーに移った真島氏は、その難しさを実感し、「スタートアップ側から見ると『なぜこんなに良い技術があるのに大企業は動いてくれないのか』とモヤモヤする部分がありますよね。しかし大企業側にはタイミングの問題があります」 と語った。

 既存事業の担当者は、2030年に向けた中期経営計画などの目標達成に追われている。そこへ10年後、20年後に実用化する技術を持ち込んでも、「おもしろいね」で終わりがちだ。 

 そこで真島氏が取り組むのが、事業部門と一緒に2040年の未来像を描き、必要な技術や事業を逆算するバックキャストの考え方だ。将来の姿を共有できれば、技術が未成熟でも、長期的な成長への投資として議論しやすくなる。双方の事情を理解し、時間軸のズレを「翻訳」できる人材が欠かせないという。 

米国で聞いて、日本で直す ミライセンスの開発スピード

 大企業とスタートアップでは、開発のスピードも大きく異なる。中村氏が重視したのは、研究成果を具体的なプロトタイプにし、顧客と実物を介した「タンジブルな対話」 を高速で繰り返すことだった。「研究者は『自分の発明は何にでも使える!』と妄想を膨らませがちですが、企業に見せると『今、現実社会で、何ができるの?』と言われて終わりです」とした。

 そこでまず、手で触れて体験できる試作品をつくり、顧客から率直な評価をもらった。さらにシリコンバレーに渡り、米国のトップ企業にプロトタイプを直接持ち込み、実際に触り、使い倒してもらった。顧客が求める未来と現状の技術のギャップがわかれば、開発目標も明確になる。

 ミライセンスでは、米国で受けたフィードバックを、時差を利用して日本の開発チームが改良し、米国時間の翌朝には顧客の声を反映した新しい試作品を提示するアップデートとサイクルを回した。中村氏はこれを、開発と理解の「クロック周波数を上げる」と表現する。単に開発を速めるのではなく、顧客の反応から技術と市場のギャップを理解し、次の開発へ反映するサイクルそのものを高速化する考え方だ。

 では、大企業側はスタートアップのスピードにどう応えるべきか。真島氏は、大企業には既存の研究開発との調整や、事業部門間の合意形成など、避けられないプロセスがあると認める。そのうえで、担当者自身が社内の関係者を把握し、必要な調整を素早く進める「プロデュース能力」が問われると述べた。

「この人と仕事がしたい」最後に問われるのは熱量

 セッションの終盤、鈴木が「大企業がスタートアップから選ばれる存在になるには、何が必要か」と問うと、両氏が共通して挙げたのは「熱量」だった。

 真島氏は「この人と仕事がしたいと思えるかどうか、これに尽きます」と強調する。担当者には、技術の可能性を理解するだけでなく、「なぜヤンマーがこれをやるべきなのか(Why Yanmar)」を社内に説明し、関係者を巻き込む力が要るという。

 中村氏は、スタートアップと大企業の違いを、「何度シュートを外しても、『あいつにボールを渡せば何とかしてくれるんじゃないか』と思わせるストライカーがいる。そして、何度失敗しても、その人にボールを渡すチームがある。そういう関係が大事なんだと思います」とサッカーに例えた。スタートアップはボールを持ったら一直線にシュートを狙うストライカー、大企業は組織全体でパスを回して攻めるチームだ。

 スタートアップにも、大企業の新規事業担当者にも、自らシュートを打つ姿勢が求められる。同時に、その挑戦を信じて支える組織も欠かせない。ディープテックの社会実装には、技術や資金だけでなく、失敗を重ねながらも挑戦を続けられる信頼関係が必要だというメッセージで、セッションは締めくくられた。

モデレーターのASCII STARTUP副編集長 鈴木亮久

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