AIエージェントは企業の働き方をどう変えるのか。VivaTech 2026で語られた「Agentic Enterprise」
OpenAIらが語った、企業向けAIエージェント導入の現在地
2026年6月にフランス・パリで開催されたVivaTech 2026では、AIエージェントが企業のワークフローをどう変えるのかが大きなテーマのひとつとなった。
なかでも注目を集めたのが、OpenAIのティボー・ソティオー(Thibault Sottiaux)氏と、OpenClaw創業者のピーター・スタインバーガー(Peter Steinberger)氏によるセッション「The Agentic Enterprise: From Software Development to Everyday Work」だ。
生成AIは、質問に答えるチャットボットから、ユーザーの目的を理解し、複数のツールを使いながらタスクを進めるAIエージェントへと進化しつつある。では、その変化は企業の現場でどのように表れているのか。
AIエージェントはなぜ今、企業で使われ始めているのか
セッションの冒頭、ソティオー氏は、AIエージェントの台頭を支えているのはモデルそのものの進化だと説明した。
これまでの生成AIは、人が入力した質問や指示に対して回答する使い方が中心だった。しかし、モデルが扱える文脈の量が増え、外部ツールを使う能力が高まり、長時間のタスクを維持できるようになると、AIに任せられる仕事の範囲は大きく広がる。
ソティオー氏は、GPT-5からGPT-5.2にかけての進化を「ステップチェンジ」と表現する。AIが単発の回答を返すだけでなく、自律的にタスクを分解し、必要に応じて別のエージェントに処理を委譲する。こうした仕組みによって、「AIがAIに話しかける」新しいレイヤーが生まれつつあるという。
コーディングから、財務・マーケティング・管理業務へ
AIエージェントの活用は、まずソフトウェア開発で広がった。コードを書く、修正する、テストする、既存のコードベースを理解する。こうした作業は、目的が明確で成果物も検証しやすいため、エージェントと相性がいい。
スタインバーガー氏は、エージェントの活用範囲はコーディングにとどまらないと話す。広いコンテキストを理解し、ゴールに向けて長時間タスクを進め、一定の正確性を維持する。こうした能力は、財務、マーケティング、管理業務などにもそのまま当てはまる。
実際にOpenAI社内でも、資金調達に関するプロセスや日常的なオペレーションに同社のCodexが活用されているという。ソティオー氏は、フランスでのCodex導入が今年に入って9倍に増加したと紹介し、AIエージェントが一部のエンジニア向けツールから、より広い業務ツールへと広がりつつあることを示した。
導入の壁は、技術よりも「何を任せられるか」
両氏が共通して指摘したのは、企業導入の障壁は必ずしも技術そのものではないという点だ。むしろ課題になっているのは、人間側がAIエージェントに何を任せられるのかを十分に想像できていないことだという。
モデルはすでに多くのことができるようになっているが、ユーザー側の使い方はまだ限定的だ。メールの整理、議事録の作成、資料の下書きといった範囲にとどまり、複数のアプリケーションをまたいで業務を進めるような使い方は、まだ一般的とは言いにくい。
どの業務を任せ、どこで人間の確認を挟み、どのワークフローに組み込むのか。AIエージェントを使うには、社内でそうした知見を学び、共有していく必要がある。
エージェント時代に避けて通れない安全性と制御
AIエージェントが企業のPCや業務システム上でコードを実行し、ファイルを操作し、外部ツールにアクセスするようになると、安全性の重要性は一段と高まる。
ソティオー氏は、OpenAIが重視している領域として、ユーザーが常に主導権を握れる設計、リスクの高い操作をブロックする仕組み、そして「エージェントがエージェントを監視する」ような新しい安全アーキテクチャを挙げた。
エージェントができることが増えるほど、権限管理、監査、承認フロー、ログの記録といった仕組みも必要になる。AIエージェントを企業の業務基盤に組み込むには、便利さだけでなく、制御できることが前提になる。
導入は「個人利用」から「マルチエージェント」へ進む
スタインバーガー氏は、企業がAIエージェントを導入する典型的な流れについても説明した。
最初は、個人が自分の業務を助けるために使い始める。例えば、メールの整理、面接準備、調査、資料作成などだ。次に、毎日または毎週発生する定型業務を自動化するようになる。さらに、同じ使い方がチーム内に広がり、知見が共有される。
その先にあるのが、複数のエージェントが連携するマルチエージェントの世界だ。目的別に専門化したエージェントが、企業内のツールやデータに接続し、仮想チームのように業務を進める。
現時点では、ひとつの万能エージェントにすべてを任せるよりも、目的ごとに特化した複数のエージェントを組み合わせる方が成果を出しやすいという。営業、経理、人事、開発といった役割ごとに人が分かれている企業組織にも近い考え方だ。
2030年、「プログラマー」は10億人になるのか
セッションの終盤では、2030年の働き方についても議論が及んだ。スタインバーガー氏は、将来的には「コードは書くが、読まない」世界が一般化すると予測した。
ユーザーは自然言語でエージェントに指示し、自分専用のソフトウェアを作らせる。本人はプログラマーだと意識していなくても、実質的にはソフトウェアを作る側に回る。その結果、「10億人のプログラマー」が生まれる可能性があるという。
一方、ソティオー氏は、AIエージェントによって生物学、化学、医学などの領域で日常的にブレイクスルーが起きる未来を描いた。さらに、エージェントとのインターフェースはより自然になり、画面を前提としない操作も広がると見る。
今回のセッションで見えてきたのは、AIエージェントがチャットボットの延長ではなく、企業の業務プロセスに入り込む存在になりつつあるということだ。
ただし、AIエージェントは、いきなり企業全体を変えるものではない。まずは個人の作業を助け、次に定型業務を自動化し、やがて複数のエージェントが連携する。その積み重ねによって、企業の働き方は少しずつ変わっていく。2026年は、AIエージェントが実験的なツールから、企業の業務基盤へと移り始めるタイミングなのかもしれない。
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