Viva Tech2025が開催 マクロン大統領、NVIDIAフアンCEOが示したAIの国家戦略
2025年6月10日~14日、ヨーロッパ最大のスタートアップ、イノベーションカンファレンス「Viva Technology 2025」が、フランスのパリのポルト・ド・ヴェルサイユで開催した。今年で9回目となるイベントは、NVIDIA GTC Parisが併催され、過去最高となる171の国と地域から18万人もの来場者を迎え、1万4000社以上のスタートアップ、3600以上の投資家、投資ファンドも会場に集結し、その規模と多様性において記録的な開催となった。特にこれまでもイベントの中心だった人工知能(AI)は、関連出展者が前年比40パーセント増を記録。発表ではイベント期間中には64万件ものビジネスミーティングが実施されたとし、世界中から集まったスタートアップによるソリューション、サービスの数々が展示され、まさに世界最大規模に成長した、イノベーションカンファレンスとなった。
オープニングには、Viva Techの共同創業者、Publicis GroupeのMaurice Levy会長と、Les Echos - Le Parisien GroupのPierre Louette CEOが登壇。VivaTechが、スタートアップの年間で25~30%のリードを獲得する機会を提供しているビジネスの場であると話す。今年はカナダがカントリー・オブ・ザ・イヤーを務めたことで、よりAI色が強くなっていた。カナダは170社以上のAI、テクノロジー企業を擁して過去最大となる代表団を派遣し、先進的AIテクノロジーを紹介した。改めてAIがビジネスを変革する現実的なものとなることを言及した。
フランスのデジタル AI担当大臣Clara Chappaz氏はラスベガスへ行かなければならなかった時代は終わり、今は世界がパリに集まっていると述べた。実際に今回のViva Techはよりグローバルに、初めてアメリカからヒューストン、マイアミが参加したほか、サウジアラビア、ナイジェリアなど、前年比で20パーセント増という各国のスタートアップを集めたナショナルパビリオンが50以上、地域パビリオンも15以上展開された。
カナダからは長年イノベーション、科学、テクノロジーの肥沃な地であったことを強調し、特にAIが経済変革だけでなく、社会進歩の鍵を握っていると、カナダの技術をフランス、ヨーロッパと戦略的につなげていくことを目指しているとした。フランスのClara Chappaz氏も、カナダや優れたテクノロジーを構築する国との提携をリードしていくとした。
VivaTech 2025の基調講演は、NVIDIAの創設者兼CEOであるジェンスン・フアン氏が務め、NVIDIAの成り立ちから、AIとコンピューティングの未来、事例、最新のアーキテクチャ、製品、ソリューションを紹介した。データセンターがもはや単にファイルを保存する場所ではなく、インテリジェントなトークンを生産する「AIファクトリー」であり、AIファクトリーは収益を生み出す施設であり、各国にとってインフラの一部であると強調した。デジタルツイン環境での思考やシミュレーション、ロボティクスでのリアル環境での動作、インダストリアルAIでの工場、倉庫の最適化、自動運転のソフトウェア、センサーなど事例を紹介。今後数年間でヨーロッパのAIコンピューティング能力が10倍に増加すると予測、今もAIインフラの構築が急速に進んでおり、NVIDIAはフランス発のAIスタートアップ企業「Mistral AI」との提携により、地域に特化したAIクラウドの構築を進めるなど、エコシステム全体を支援すると発表した。
また初日のクロージングセッションでは、NVIDIAのジェンスン・フアン氏が再登場し、Mistral AI CEOのArthur Mensch氏、そしてフランスのエマニュエル・マクロン大統領が登壇した。NVIDIAとMistral AIの提携を「歴史的なもの」であり、ゲームチェンジャーであると強調。この提携が、主権と戦略的自律性のためであり、データ、データセンター、コンピューティング能力をヨーロッパ内に保持することの重要性を強調した。フアン氏もまた、「自国のインテリジェンスをアウトソースすべきではない」と述べ、AIが国民の知識、歴史、文化、常識、価値観とするものであるため、各国が自らのAIシステムを構築する必要があると主張した。フランス政府自身もコンピューティング能力とデータセンターの構築プロジェクトを推進していることに触れ、マクロン大統領自らが主要企業に電話をかけ、この提携へのコミットメントを促したと話した。
昨年はVivaTechに参加できなかった、マクロン大統領は恒例のブース会場に登場。熱心にスタートアップ、各出展者に話を聞いたり、大統領周辺は混雑で身動きが取れない状況だったが、その中でも起業家が少しでも話をしようとしたエレベーターピッチにも耳を傾けていたりと、相変わらずのコミットメントの高さを感じさせた。
日本がカントリー・オブ・ザ・イヤーだった昨年は、スタートアップエコシステムやダイバーシティなどについての言及が多かったところ、今回は明らかにAI一辺倒な印象だった。AIが単なる技術、トレンドではなく、さらにビジネスだけでなく、地政学的にも重要であることを明確に示していた。マクロン大統領からもAIの産業革命を国家インフラ、ヨーロッパ単位のレベルで推進しようとする姿勢だけでなく、NVIDIAとの提携、独自のデータセンター構築などの具体的な施策も提示された。一方で米中のAIからは大きく後れを取っているとも言及され、ヨーロッパが次の一極になれるかが大きなポイントなる。
展示ブースではホール2がモビリティー、スポーツテック、ゲーミングなどやや大型展示や体験型展示があったところ、今回はほぼ姿を消していた。各国のパビリオンがぎっしりと集まり、スタートアップエコシステムの見本市となっていた。重要なセッションから見えてきたAIの地政学的、変わるアメリカ、閉じた中国という先行きの見えにくい局面の中で、各国のスタートアップエコシステムが交わり、今後の成長につなげていくのか。ヨーロッパ、フランスが果たさなければならない役割は大きい。「Viva Technology 2026」は2026年6月17日から20日での開催が発表された。今回、改めてVivaTechというイベントの重要性を感じることとなったが、10回目の記念となる会、どんな姿を見せてくれるか、今から楽しみだ。