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ブースを出すだけでは届かない。欧州イベント取材で見えたスタートアップ支援の変化

北島×ガチ鈴木の最近何してた?

今回は、海外イベントを取材したガチ鈴木と編集長の北島が、欧州エコシステムで見えた変化、新規事業開発に必要な視点、そして11月開催予定の「ASCII STARTUP TechDay」について語る

VivaTechは展示会から都市イベントになった

北島:ガチさんは5月、6月と立て続けに欧州のスタートアップイベントを取材してきたね。

ガチ鈴木:はい。5月はオーストリア・ウィーンのViennaUP、6月はフランス・パリのVivaTechに行ってきました。順番ではViennaUPが先ですが、話としてはVivaTechから入ったほうがわかりやすいと思います。

 VivaTechは、オンライン開催を含めると今回で7回目の参加です。初めて行った時もそれなりの規模でしたが、今回は10回目ということもあり、さらに拡大していました。当初は大企業とスタートアップの協業、いわゆるオープンイノベーションの現場を見るイベントという印象でした。2018年ですが、日本から来ている人も10〜20人くらいだったと思います。

 それが年々、日本からの人が増えていって、東京都も出展するようになり、SusHi Tech Tokyoのような日本の大型イベントにも影響を与える存在になった。今年は10回目の開催で、参加者は20万人規模。もはや「世界最大級」ではなく、「世界最大」のスタートアップ・イノベーションイベントと言ってよいと思います。

 日曜日にはシャンゼリゼ通りを貸し切った「VivaTechフェスティバル」も開かれました。展示会場だけでなく、パリの街全体でスタートアップイベントをやっているような空気でした。月曜入りだったので直接観られなかったのが残念です。

欧州の関心はAI活用から、地政学リスク・防衛・宇宙へ

北島:VivaTechでは、どんなものが目立っていた?

ガチ鈴木:今年は、地政学リスク、防衛テック、サイバーセキュリティの文脈がかなり強かったです。AIについても、MistralAIのような欧州発LLMへの注目は続いていますが、単なるAI活用の話というより、「アメリカや中国に対して、欧州がどう独自性を持つのか」という議論になっています。

 「アメリカのAIに頼り切っていてよいのか」という危機感から、欧州独自のLLMやAI基盤を持つべきだという議論につながっている。サイバーセキュリティを含めた防衛も、その延長線上にあります。

 宇宙関連のセッションも目立ちました。宇宙開発はもはや国家戦略や産業政策の中心に入ってきている。地政学的な変化の中で、欧州がどの領域で存在感を持つのか。その問いが、イベント全体の空気としてありました。

北島:日本でもデュアルユースの話題が強く表に出るようになったけど、欧州だとその切迫度合いが異なると。

巨大イベントの限界。出展するだけでは成果につながらない

ガチ鈴木:ただ一方で、巨大化したイベントならではの難しさも感じました。オープンイノベーション、投資、行政、スタートアップなど、あらゆる産業セグメントが混ざり合う「総花的」な場になるため、個々のスタートアップから見ると、来場者の目的も関心もかなりバラバラです。ブースを出して立っているだけでは、成果を出すのが難しくなっている。

北島:規模が大きくなったからこそ、偶然の出会いだけに頼るのは厳しくなる。

ガチ鈴木:そうです。会いたい人を事前に決めて、アプリでマッチングして、自分から動く。そうした能動的な参加をしないと、出展すること自体の意味は薄れてきています。だからこそ、ViennaUPのような、都市分散型でテーマ別に人が集まるイベントの価値がより見えてくるんです。

ViennaUPで見えた、テーマ別に人が集まる強さ

ガチ鈴木:ViennaUPは、1カ所に大人数を集める中央集権型ではなく、都市分散型のスタートアップフェスです。2週間の期間中、ウィーン市内のさまざまな場所で、ハッカソン、ワークショップ、マッチングイベント、産業別イベントが同時多発的に開催されます。

 規模は小さいもので50人、大きくても500人程度。大学研究のスタートアップ化に関するイベント、製造業に特化した「Manufacturing Day」、日本とオーストリアをつなぐイベントなど、テーマごとに目的の近い人が集まる設計になっています。

北島:大規模イベントとは異なり、出会いの密度が高くなる?

ガチ鈴木:そこがポイントです。同じ産業セグメント、同じ課題意識を持つ大企業、スタートアップ、支援者が集まるから成果につながりやすい。僕は以前から、たとえば製造業のスタートアップならハノーバー・メッセ、サーキュラーエコノミーならリヨンのPollutecに行くべきだと考えていました。ViennaUPは、その小規模版として、スタートアップと関係者が密度高くつながれる場になっています。

ViennaUPのシンボルになっているネオンカラーの馬。会期中はこのオブジェがウィーンの街のいたるところに設置される

オーストリアは欧州の「テストマーケット」

北島:ウィーンという中東欧の場所自体にも特徴がありそうだね。

ガチ鈴木:オーストリアは、欧州市場への入り口として面白い場所です。ドイツ、スイス、イタリアなどの大企業が、新製品を本国で展開する前に、コンパクトな市場であるオーストリアをテストマーケットとして使う文化があるんです。これはスタートアップにも当てはまります。ここで手応えをつかめれば、ドイツやフランスを含むEU市場に展開する足がかりになります。

 特に注目したいのが、オーストリア政府の「GIN(Global Incubator Network Austria)」です。この中に「GO Austria」という制度があり、海外スタートアップを最大3回まで無料で現地に招待し、段階的に支援します。

 1回目は現地企業とのマッチングや市場理解。2回目は具体的な商談の深化。3回目は現地法人や拠点設立を見据えた進出支援です。現地の大企業やインキュベーターは、合わないと思えばはっきり断る。その代わり、「それなら別の企業に会ったほうがいい」と次の相手を紹介してくれる。非常に合理的で、次につながりやすい仕組みです。

北島:アメリカやアジアの巨大市場をいきなり狙うのではなく、欧州市場への入り口としてオーストリアを使う。ある程度成長した日本のスタートアップにとっても、実用的な選択肢になりそうだね。

新規事業は「失敗をどう仕組みに変えるか」が問われる

北島:海外のエコシステムという話題に乗っかりますが、ASCII STARTUPから8月5日に『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』を刊行します。

 本書は、大企業の新規事業開発をテーマにした1冊で、ゼロワンブースターの合田ジョージさんとスイス・ビジネス・ハブの羽山友治さんによる共著で、二人が語り合った世界1000本超の論文をベースに、現場の目線を組み合わせました。「どのようにしたら新規事業は成功しやすいか」「組織としてどう仕組みを作るべきか」という点はもちろん、単体の新規事業にとどまらない、多対多の協業や世界で進むエコシステム形成まで踏み込んでいます。

ガチ鈴木:新規事業では、スタートアップスタジオやベンチャービルダーのような手法が注目されています。ただ、海外の事例をそのまま模倣してもうまくいかない。だからこそ、理論を知ったうえで、自社の組織や市場にどう適用するかが重要になります。

北島:体系的な知見を事前に知っていれば、無駄な失敗を避け、事業展開をショートカットできる。

ガチ鈴木:そうした失敗やノウハウを共有する場がもっと必要ですよね。ただ集まって盛り上がるだけではなく、実のある情報共有ができる場を増やしていきたいです。

『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』(KADOKAWA刊、8月5日発売)

TechDayでは、ディープテックの「市場起点」を議論する

北島:最後に、11月開催予定の「ASCII STARTUP TechDay」にも触れましょう。

ガチ鈴木:「ASCII STARTUP TechDay」は、11月30日に品川インターシティホールで開催予定です。昨年同様、1日を通して5〜6本のカンファレンスセッション、約30ブースの展示、ネットワーキングを予定しています。

 メインテーマは引き続きディープテックですが、今年はさらに「グローバルな情報」と「日本からのグローバル進出」に焦点を当てます。ViennaUPで見たGINのような海外展開支援の知見もセッションに反映していきたいと考えています。

 海外のエコシステム関係者や研究者、アクセラレーターに取材して痛感したのは、研究開発型スタートアップで最も重要なのは市場の課題、つまりマーケットニーズだということです。

 海外では、市場に課題があるからこそ研究をスタートアップ化する、という考え方が大前提になっています。一方、日本では、まず技術や研究があり、そこから後付けで社会課題やCXOを探すケースが少なくありません。矢印の向きが逆になっているわけです。一方で国内の課題解決としての研究開発×ビジネスなど足元もテーマにする予定です。

北島:TechDayでは、その「矢印の向き」をどう変えるのかを議論したいね。研究成果をどう事業化するかだけでなく、市場の課題をどう見つけ、研究や事業開発にどう戻していくのか。そのために必要な人材、プロセス、エコシステムの使い方を掘り下げていきます。

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