攻めも守りも知財から スタートアップ経営者こそ高めたい「知財マインド」のポイント
「特許がビジネスの武器になる スタートアップ、中小企業向け知財セミナー by IP BASE in 豊田市」レポート
提供: IP BASE/特許庁
パネルディスカッション「スタートアップにおける知財とは」
続いてパネルディスカッションでは、スタートアップにおける知財スタートアップ支援の現場での知財戦略の取り組みや、スタートアップの抱える知財の課題とその解決策などが議論された。
パネリストには、引き続き森岡智昭氏と、有限責任監査法人トーマツ 監査・保証事業本部 中京事業部 中京監査アドバイザリー/シニアマネジャーの越智鉄兵氏、名古屋大学 学術研究・産学官連携推進本部 教授 鬼頭雅弘氏、株式会社MTGVentures/PRE-STATION Aiコミュニティマネージャー 山本有里氏が登壇。モデレーターとして、特許庁の芝沼隆太氏が参加した。
スタートアップの知財意識を上げるには?
最初のトピックは「スタートアップの知財意識」。日頃から多くのスタートアップと接している山本氏は「スタートアップや投資家との会話のなかで知財の話題が出ることはほとんどない」と話す。越智氏も「ピッチイベントで審査員から指摘されてようやく知財を意識する。特許を出願しても、登録後の管理や活用までは考えていない印象がある」と同意する。
知財イベントは増えているが、他のビジネスイベントに比べて参加率が低く、知財の認知を上げていく必要がある。また過去の出願経験で知財専門家との相性が悪く、知財にネガティブなイメージを持つスタートアップもいるそうで、知財専門家とのマッチングも課題だ。
知財専門家に相談するタイミング
森岡氏が支援する際には、タイミングに気を付けているという。「投資家から指摘されてはじめて動き始めるのが実態。しかし、事業が始まる直前に商標出願して拒絶査定になると対応が間に合わない。そういう事態にならないように、タイミングよく相談できる場所にいたいが、そういう場所があまりない」と話す。インキュベーターが知財専門家を紹介するのが理想だが、AIなどの新しい技術分野に精通し、スタートアップ支援の経験を積まれた弁理士は少なく、マッチングが難しいという。
アカデミアでの知財意識向上の取り組みについて鬼頭氏に聞くと、「先生方は研究教育に忙しく、セミナーを開いても集まってくれないことが多いので、こちらから伺って知財の話をするようにして広めており、普段から交流することで、先生方から知財の相談がでてくるようになります」とのこと。
また大学発ベンチャーの場合、大学の研究シーズをもとにした研究開発型ベンチャーは知財意識が高いが、学生発のベンチャーはアイデアベースが多く知財への関心は低い傾向がある。また、頻繁にピボットするので、知財を取るタイミングが難しい。資金調達のタイミングで投資家から指摘され、あわてて知財活動に取り組むことになるケースが多いようだ。
越智氏は、「知財は自分たちの権利を守るための盾であり、権利を侵害されたときの剣でもある。他社の知財を侵害していたことが発覚してIPOが難しくなることもある。知財を取得するかどうかだけでなく、ビジネスを考える早いタイミングから知財を意識しておくことは重要」、と意見を述べた。
知財マインドを持っていないと特許を出願するかどうかの判断ができず、他社の権利侵害にも気付けない。ビジネスの早い段階から知財マインドを高めておくことが大切だ。
スタートアップが出願する際に気を付けること
続いて、特許の出願で気を付けることについて、専門家の森岡氏と鬼頭氏に聞いた。
森岡氏は、「出願するかどうかは個別具体的なので、一般論では判断が難しい。会社の事業のポートフォリオを見たうえで事業戦略や運用を考えながら検討する」とのこと。専門家と議論しながら戦略的に進めることが重要だそう。
鬼頭氏は、「特許は費用がかかる。弁理士費用に数10万円、海外出願では1件で数100万円かかり、創薬分野で複数カ国に出願すれば1000万円を超えくる。いつお金がかかるのかを把握し、考えていくことが必要になる。また、第三者知財の調査も重要。大学からの出願ではあまり調査をしていないので、起業の際はリスク管理として自分で調査することが大事」とアドバイスした。
最後にパネリストそれぞれがスタートアップの方へメッセージを語った。
越智氏:「知財は意識しておく必要性は絶対にある。権利を取るか取らないかに関わらず、知財の存在を意識しながらビジネスを考えておくことが大事。我々も相談できる方がどこにいるのかをしっかりと把握し、つないでいけるようにしたい」
鬼頭氏:「知財専門家といっても、コンサルティング専門の方と出願業務を専門とする方とでは役割が違う。戦略的に出願しないこともあるので、うまく使い分けるといい。知財権は非常に強く、いざという場合には差止請求などで相手の事業を抑えることもできる。訴訟も意識した知財活動、事業活動を行ってほしい」
山本氏:「スタートアップが攻めるためにはしっかり知財を守っていかないといけない。大企業との協業では、共創で生まれた価値の帰属についての議論がよく起こる。知財について相談できる方と連携しながら、安心してスタートアップをサポートできるようにコミュニティマネージャーとして意識していきたい」
森岡氏:「スタートアップの方々には、まずは身近に専門家を置いて、疑問が出たときに、すぐに気軽に相談できる関係性を構築していってほしい。まだまだ知財マインドが普及していないことを感じているので、これからも必要なところに、必要な方に、知財情報を届けていけるように活動を続けていく」