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半導体製造のような臓器チップの開発プラットフォームで注目。ヒト治験を変革するフィンランド発スタートアップ

Finnadvance 創業者兼CEO プラテック・シン(Prateek Singh)氏 インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」に掲載されている記事の転載です。

 バイオテクノロジー関連市場は世界的にも成長中の分野であり、数多くのスタートアップが参入している。2019年にフィンランドで設立されたFinnadvanceは、バイオマテリアルを専門にマイクロ生体模倣システム(MPS技術)を活用した独自のハードウェアソリューション「AKITA」を研究開発プラットフォームとして提供し、注目を集めている。先進的な技術開発において必須といえる知財への取り組みについて、創業者兼CEOのPrateek Singh(プラテック・シン)氏に話を伺った。

Finnadvance 創業者兼CEO Prateek Singh(プラテック・シン)氏
生化学の修士号と工学の学士号を持つバイオテクノロジー起業家。21件の論文発表と特許を持ち、10年近いバイオテクノロジー分野でのキャリアを持つ。これまでロボット工学やAI企業を創業し、成功裏に売却した経験を持ち、現在は動物を使わずにヒト臓器のミニチュアを培養し、より迅速な創薬を可能にするソフトウェア技術プラットフォームを構築している。

エンジニア志向の垂直統合型組織により自社内で全てのサービスを開発

 医薬品や医療関連製品を製品化するには治験が必要だが、動物実験による前臨床試験で成果が出ても、ヒトで治験を行うと90%が不適格になることが課題となっている。また、海外では動物実験を禁止する動きもあり、適切な試験ができる新たな方法が求められている。

 Finnadvanceは、バイオミメティクス(生物模倣)技術を用いた次世代のin vitro(試験官内の人工的な環境)臓器オンチップを開発し、ヒューマナイズされた研究開発プラットフォームを構築する話題のスタートアップである。特に体外毒性試験において高い信頼性とシェアを獲得しており、反復的な測定を継続的に行える装置や培養プレートなどを独自に開発した「AKITA」シリーズは、研究者やバイオテック企業にとって研究開発の時間とコストを大幅に短縮する画期的なツールとして注目されている。

 創業者兼CEOのプラテック・シン氏はバイオテクノロジーに特化した化学工学を専門としているが、土木工学や機械工学を学ぶエンジニアでもある。生化学とタンパク質科学の修士号を取得するために入学したフィンランドで、複数の発明をしたうちの一つが欧州連合に認められ、資金を得たのをきっかけにFinnadvanceを2018年に起業した。

 シン氏は「私たちはエンジニアとさまざまな分野の専門家が集まる垂直統合型のバイオテクノロジー企業であり、ハードウェアからソフトウェアまでフルサービスを自社で開発している」と説明する。「半導体の製造と同じような技術を用いて、研究室の実験で使用する臓器チップのシステムを開発し、動物モデルとヒトモデルで行うテストを橋渡しするプラットフォームを構築している」

 技術の進歩により、近ごろは機械学習などのAIで効率的に薬を設計するようになってきた。しかし、薬物ライブラリーができても、臨床実験はまだ動物で行なわれていることが創薬の課題になっているとシン氏は指摘する。例えばCOVID-19のワクチン開発は、通常10年かかるところを2年足らずで実現したが、その裏で記録的な数の動物実験が行なわれ、研究開発に使用できる数が不足していたという。

「私たちが開発した実験モデルは、動物実験に代わるだけでなく有用であることが認められている。これからは、従来の抗がん剤では効かない患者に対し、自身から採取した生検のミニチュアを培養して、その人に合う化学療法カクテル療法や治療法を提供できるという方向でも我々の技術が役立つだろう」(シン氏)

 設立当初からプロセスの品質管理を徹底することで、失敗してもどの工程が問題であるのかがすぐに特定でき、健全なマージンを維持することで成長を加速させている。「高い品質の製品を提供することで、研究開発現場の正確性とスピードを高め、コストを抑えることにも貢献している」と述べるシン氏の言葉から、自社の技術に大きな自信を持っていることが伺える。

22件の特許を出願。現在も月に3~5件の発明を生み出す。

 Finnadvanceを支えるアイデアの多くは設立当初に考えられたものだ。最初の1年はアイデアを考えることに費やした。

「現在も毎月3~5件の発明を生み出しているが、非常に明確な優位性をもたらし、ビジネスでプラスになるもの以外は特許を取るべきではなく、ノウハウや企業秘密として保管する方がいいこともある。特許が1個であろうが100個であろうが、顧客が喜んでお金を払うような製品を提供できなければ意味がない」とシン氏は言い切る。

 企業にとって知的財産はどの程度重要だと思われるか、という質問に対しては、「現在は会社やビジネスを始めるのが非常に簡単でプロセスも早いため、保護できるものがなければ競合他社を出し抜いたり、囲いを作ったりできないことから、ささやかなように見える技術でさえ、特許で保護されていることで価値があるものになることもある。テクノロジー系の企業にとって知財は魅力的なM&Aのターゲットになり、切り札になるかもしれない」と述べる。

 さらに特許の取得で気をつけている点を聞いてみたところ、「自分たちが得意とする技術やどのような点が特許になるかを検討する場合、オープンソースなどを使って既存の技術状況をチェックし、他社の知的財産を侵害しないように細心の注意を払うことが非常に重要だ。まったく新しいものであるかどうかを確認できれば、発明を製品化すればいいが、そこで特許を取得するか、企業秘密として保持するかは検討が必要だ(オープンクローズ戦略)」との答えが返ってきた。

 新規性や進歩性を主張する際に特許庁から反論されないようにするには、「特許を非常にクリーンな状態に保つよう心がけることが大切だ」とも。また、年間で特許取得1件につき国によっては 1~2万ドルのコストがかかることも頭に入れておく必要があるともアドバイスしている。

外部の研究者との共同研究ツールに自社のプラットフォームを提供

AKITAプレート用マルチチャンネルTEER(経上皮電気抵抗)測定器「AKITA Lid」

 Finnadvanceは特許出願に力を入れる一方で、共同研究ツールとして自社のプラットフォームを研究コミュニティやユーザーに提供している。「優秀な研究者たちとデータを共有することで、私たちのプラットフォームが標準的な基準を満たし、科学的信頼性を得ることにつながるというWin-Winの関係を築いている」(シン氏)

 社内ですべての技術を構築しながら、外部とも連携を取るという柔軟な発想は、次の技術の進化を速めることにもつながっている。時にはOEMとも協力関係を結ぶが、その理由は「デバイスの購入や作る場合に、充実したサポートや技術文書を入手するための最良の方法である」ためだ。積極的な協力関係を外部と築く上で重要なことの1つは「常にリファレンスを確認することだ」と話す。

グローバル展開では日本での知財登録も視野に入れる

 Finnadvance は今後も開発の拡大を進めるとしているが、バイオテクノロジー分野の先進国である日本や韓国も視野に入れている。

「私たちの拠点はフィンランドだが、日本や韓国などのアジア、また米国にも販売拠点を設け、この分野の世界的なトップクラスの研究者と協力しようとしている。日本はバイオテクノロジー分野で技術的に非常に進んでおり、プライマリーヘルスケアも進んでいる。一方で認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、心筋梗塞などに関連する病気や体の故障が主な死因となっている。これらの疾患は私たちが注力している分野でもあり、研究開発に協力できると考えている。そのためにも私たちの知財を日本でも登録する必要があると考えている」

 これまでに多くの国でさまざまな知財を出願してきた経験を持つシン氏は、「自分で取得した特許を見せるほうがより信頼性と説得力のある印象を与えることができるので、これからも積極的に知財に取り組んでいく」と述べた。

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