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終結まで5年。あるスタートアップが経験した商標取得の落とし穴

Trim株式会社代表取締役長谷川裕介氏の体験談

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無効審判が認められるまでと、得たもの・失ったもの

 2019年7月、特許庁へ無効審判を請求。その詳細は長谷川代表のnote後編につづられているが、最終的にはTrimの主張が全面的に認められ、先願商標を無効化することができた。先行する商標がなくなったため、Trimは無事に商標「mamaro」を取得することができた。

 だが、無効審判が確定して自社の商標が登録できたのは2020年5月。2017年の事件発覚から解決までに約3年もの期間がかかっている。事実が発覚してからは、ひたすら相手側の反応を待つことの繰り返しで、自分たちでできることは少なく、精神的な負担のほうが大きかったそうだ。また第三者の先願商標が存在していることで敬遠され、進めていたプロジェクトや商談がストップしてしまうことも少なくなかったという。そもそも、シード期のスタートアップにとって、係争のための人的、物的コストやスピードの停滞は大きな打撃だ。

 関わったネクセル総合法律事務所の専門家たちから知財の重要性やテクニックを学んだことで、社内の知財体制も変わった。現在は、社内に知財チームをつくり、ネクセル総合法律事務所の弁理士と毎月定例ミーティングを実施し、どのように特許や商標を取っていくか知財戦略を立てて、実行しているそうだ。

 がんばって登録したぶん、「mamaro」という名前への愛着もより高まった。Trimは引き続き「mamaro」を主軸として、ブランディング戦略を立てていく方針だ。

 「スタートアップは事業の攻めに集中しがちですが、知財に限らず、守りも重要。まだ知名度の低いシード期であっても気は抜けません。商標出願はどんどんすべきです」と長谷川氏。少しでも芽が出そうなものであれば、発表時のリスクなどを含めて、早めに弁理士に相談することを強く勧める。

 今回のTrimのケースは、発表前に商標出願をしていれば防げたものだ。無効審判や訴訟等を行うと、高額な費用と数年の期間がかかってしまうこともまれではない。最終的に、Trimでは損害賠償請求を行い、請求を正当と認める認容判決を得た。

 だが、損害賠償等請求まで含めると、判決が出るまでに約5年の歳月を必要とした。スタートアップにとって失った時間は取り戻せないうえ、請求が認められないリスクもある。

 さらに言えば、今回のケースは無事に自社で商標を登録することができたものの、第三者が悪意をもって準備を進め、問題がさらに長期化するケースも国内外では多数ある。スタートアップならではの急成長の影で、上場やM&Aなどの避けられないタイミングで先行する商標が発覚するケースもある。

 商標登録の出願は、1件あたり数万円で行えるケースもあり、また、専門家に相談すれば長期間の準備も必要ない。ビジネスが動き出すと、忙しさに追われて出願が後回しになりやすいので、アイデア段階でいくつか名前の候補を先に登録しておくのもいい方法だ。リスク対策として手続きはお早めに。

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