IoTモノづくりのアイデア求む 北九州は完成まで支援する
IoT Maker's Project
「IoT Maker's Project」は、官営八幡製鉄所の操業以来培われた「ものづくり」のDNAを受け継ぐ北九州から、IoTで世界を変えるビジネスを創出しようという意欲的なプロジェクトだ。単に事業アイデアを募集して表彰するだけでなく、プロジェクトが抱えるメンターや共創企業、北九州市にある高専や大学などの人材や設備などのリソースを活用してプロトタイプ化を行うところまでをサポートすることを特徴としている。2017年度の開始以来、北九州市の強力なサポートの下、すでに複数のアイデアが採択チームによって製品化・事業化されている。
2020年度の募集は8月24日まで、7月22日にはZoomウェビナーを用いたオンラインプロジェクト説明会が開催された。この説明会ではプロジェクトの概要や応募要項、スケジュールを説明するだけでなく、過去に採択されたチームの体験談がパネルディスカッション形式で紹介された。
北九州市の起業家支援
「IoT Maker's Project」は、応募されたIoT関連の「事業アイデア」を北九州市に拠点を持つ企業が採択し、100万円の開発資金と、メンターや高専・大学などのリソースを提供することによってプロトタイプ完成までを支援するプロジェクトだ。採択されれば資金援助のみならず、実証実験や事業化に向けて全国に拠点を持つ企業とのコラボレーションが得られるチャンスもある。
説明会では、まず北九州市における起業家支援の取り組みについて紹介があった。北九州市は、日本一起業家に優しい街として、小倉駅を中心とした自転車で行き来できるエリア内に様々な支援機関を集約している。例えば北九州市が提供するコワーキングスペース「COMPASS小倉」が小倉駅直結の好立地に提供されているほか、fabbit株式会社や一般社団法人「まちはチームだ」がコワーキングスペースを運営している。
また、北九州市は起業家の挑戦を支えるネットワークの構築を推進しており、北九州市発の新規ビジネス創出に向けた取り組みを加速している。例えば2015年には立ち上げた「北九州スタートアップネットワークの会」は、既に会員数が800名を超える規模に拡大しており、金融機関や「まちはチームだ」の支援を受けた創業塾や、スタートアップ体験イベント「Startup Weekend」も開催されている。
北九州市は産学との連携にも積極的だ。北九州工業高等専門学校や西日本工業大学とはプロトタイプ製作やデザイン面でコラボレーションされており、「IoT Maker's Project」の採択チームはそのリソースが活用できるようになっている。直近では九州工業大学および株式会社YE DIGITALとオープンイノベーションの創出に特化した連携協定が結ばれている。
ハードからソフトまですべての分野での支援体制が充実しているところが、北九州市の特徴と言えよう。
IoT Maker's Projectの注目ポイント
そのような北九州市が主催する「IoT Maker's Project」には4つの注目ポイントがある。
1. IoTデバイス特化
「事業アイデア」を募集し、優秀アイデアを表彰したり賞金を提供するハッカソンなどは少なくないが、その「プロトタイプ完成」までサポートするプロジェクトは「IoT Maker's Project」が全国初の取り組みだ。
2. 技術/経験不問
必要なのは「事業アイデア」と「熱意」だけであり、参加者の技術力や経験は不問となっている。これは、ビジネス開発/ものづくりのプロ集団が参加者のプロジェクト推進をしっかりと支援してくれるからだ。必要な人脈形成も北九州市が仲介してくれる。
また、参加資格は社会人・学生を問わない。個人でも企業でも、全国どこからでも応募可能である。起業した場合に所在地を北九州市にするなどの制約もない。
3. 大手企業との共創機会
プロジェクトに応募したアイデアは、すべてIoT関連の新規事業開発を目指す大手企業による審査を受ける。審査に通り、採択されれば全国展開をしている企業とのコラボレーション機会を獲得することが可能だ。
2020年度の「IoT Maker's Project」には、4つの企業が共創企業として参加している。全国に8400台のタクシーを持つ第一交通産業株式会社、製造業の設備やメカトロニクスにおけるソリューションに強みを持つ株式会社ドーワテクノス、九州に工場を3つ持っているトヨタ自動車九州株式会社、そしてサイバーセキュリティの日本のパイオニアと言われている株式会社ラックの4社だ。これらの企業とのコラボレーションは、スタートアップにとって大きな飛躍のチャンスとなるだろう。
4. 開発費支援
共創企業から、1チーム当たり最大100万円の開発費の支援が得られる。これが「開発費」であって「賞金」ではないところに注目すべきだろう。プロジェクトの最後には開発したプロトタイプを使ったプレゼンテーションイベントが組み込まれており、採択チームはそれに間に合うよう、プロトタイプを開発しなくてはならない。
ビジネス開発/ものづくりを支える強力な布陣
「IoT Maker's Project」は新規のIoTビジネス立ち上げに向けて即効性のある支援体制を敷いている。まずビジネス開発面においては、、日本を代表するIoTメーカーから3名がメンターとして参加している。1人目はハードウェアに特化した投資事業を展開している株式会社ABBALab代表取締役の小笠原 治氏。2人目はパナソニック出身で独立してIoTハードウェアの開発製造を行なっている株式会社Shiftall代表取締役CEOの岩佐 琢磨氏。3人目はクラウドファンディングプラットフォームを運営する株式会社マクアケの取締役木内 文昭氏。それぞれ投資家目線、開発者目線、マーケッター目線からみたメンタリングを行なうという理想的な布陣となっている。
具体的なものづくりやプロトタイプ開発の面では、北九州工業高等専門学校の専門家チーム、北九州高専発のベンチャー合同会社Next Technology代表の秦 裕貴氏、西日本工業大学 デザイン研究所所長の中島 浩二氏がサポートする。北九州工業高等専門学校のものづくりセンターでは大型の工作機械や加工機械などを利用することができる。西日本工業大学の専門家からは商品化を視野に入れた時に欠かすことのできないUI/UXについてアドバイスを受けられる。これらはプロジェクト参加者にとって非常に大きなメリットとなるだろう。
こういった支援体制により、これまでにもユニークなIoTシステムのプロトタイプが開発されてきた。今回のプロジェクト説明会では、その中から2社をピックアップし、パネルディスカッションを通じて「IoT Maker's Project」の実態が掘り下げられた。