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Excelに圧勝できる資金調達最適化SaaSができるまで

株式会社スマートラウンド CTO 小山 健太氏

連載
創業エンジニアが残すスタートアップ開発ログ

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0→1は、起業家だけでは生まれない。先進スタートアップの創業期エンジニア・CTOは、どのような目線で製品やソリューション開発に取り組んでいるのか。最前線の開発者の生の声から、テックスタートアップの現在を追う本連載。第1回は、スタートアップの資金調達を最適化させるプラットフォーム構築を目指すsmartroundの小山 健太氏が創業エンジニアの醍醐味をお届けする。


 初めまして、小山 健太(@doyaaaaaken)といいます。

 この度の企画を取り上げていただけるアスキースタートアップ様や、企画に参加してくださる他社の創業エンジニアの方々皆様に感謝します。

 私は現在、smartroundという社員数7名のSaaSスタートアップでCTOを務めています。最初に参画したメンバーでもあり、smartroundが登記したころからずっと関わっています。エンジニアとしてプログラムを書くのはもちろん、サービスを成功させるために必要な開発周りのすべてのことに関わってきました。

 これまで新規事業のエンジニア畑のキャリアを歩んでおり、メガベンチャーでの新規事業のSaaS開発や、外資系ITベンダーでの自社の機械学習製品を利用したPoCなどを行なってきました。SaaS開発においてはサービスローンチ前から参画し、エンジニアだけで30名程度になるまでサービスが急成長するのも見てきており、そういった急成長するサービスの開発が大好きです。

 また個人の趣味のOSS活動として、Kotlin製のメジャーなWebフレームワーク・ORMapper・Testingフレームワーク等にContributeをよくしたり、自作ライブラリを作ったり、Webフレームワークの英語ドキュメントの翻訳もしていたりします。その他の趣味はプログラミング・漫画・ゲーム・筋トレ・テニスです。

「すごくもったいない」創業者をエンジニアとして支えたい

 『資金調達関連のプロセスが標準化されていないことにより、業界全体に大きな非効率が生まれている』
 『起業家は資金調達の度数ヶ月間忙殺され続け、本質である事業に集中できない。これは大きな損失だ』

 smartround代表の砂川に初めて会ったときにそう熱弁され、大きな課題に挑戦できるスタートアップだと感じました。

 創業エンジニアとして参画の決め手は、代表が「起業家として創業した会社をNTTドコモに売却した経験」「米国VCでの勤務経験」というスタートアップ・投資家両方の経験があり、両面の実態を深く理解している数少ないキーパーソンであるにも関わらず、SaaSの立ち上げをできるエンジニアがいないためサービスを作れていないというのが「すごくもったいない」と強く感じたことでした。エンジニアとしてそういった大きな課題にゼロから関わるチャンスは逃せません。

スタートアップ・投資家・士業の方向けに様々なサービスを提供

 ここで弊社smartroundについて簡単に紹介させていただきますと、スタートアップが事業に集中できるよう、主に資金調達前後の業務を効率化するSaaSを提供しています。

 具体的には、資本政策表の作成、投資家へのアピール、書類の管理、経営情報の管理、株主への月次報告などを行うことが現在できます。スタートアップ・投資家・士業の方にサービスを提供しております。

 『スタートアップ・ファースト』というValueを掲げ、smartroundというスタートアップ自身が他のスタートアップの急成長をサポートする基盤となるようなサービスを作っています。

自社の経営指標の管理および株主への月次報告を簡単に行なうことができます

Excelのユーザー体験に圧勝しなければいけなかった

 さて、創業期においては様々な困難がともないます。弊社smartroundにおいても例外ではありませんでした。たとえば「リリーススケジュールのタイトさ」です。こちらはご想像に難くないと思います。

 なぜこうなるかというと「スタートアップとしてスピードは命そのもの(=資金が枯渇すると死ぬ)」という最大の理由のほか、「実装したいもののアイデアが色々ありすぎる」からというのがあります。

 特に代表の頭の中では様々なやりたいことが渦巻いているので、「X社のAPIと連携したい」「反社チェックをしたい」「Google認証できるようにしたい」「数値がサジェストされるようにしたい」「Facebookメッセンジャーのようなチャット機能が欲しい」などなど、重いものから軽いものまでさまざまな要望の相談が来ます。

 こういった要望についてイエスマンになり全部実装し始めると、何年経ってもリリースできません。検討・調査を行なうだけでも時間がどんどん失われていきます。そのため、否定的な意見で雰囲気が多少悪くなるのをいとわず、「本当にその機能が必要なのか?」「その機能はその形であるべきなのか?」を問い続けることが創業エンジニアには必要です。

 しかし、そのように否定的に要件を落としていくだけでなく、本当に必要な機能に関しては大きな時間を割いてでも実現させる必要があります。そしてそういった機能は往々にして難しい機能であるため、まさにエンジニアとしての力の見せ所で、やりがいのあるところです。

 下記は、先日開催した資本政策勉強会イベントSmartround Academiaにおいてsmartroundの機能で作成・公開した、ビザスク様の資本政策表です。現在4つのイベント(設立・株式異動・第1回SO発行・創業者からの借り入れのDES)が見えていますが、スクロールすると全部で25個あり、現在ほとんどの会社様はこれをExcelで管理しています。

 たとえば資本政策表(株主毎の株式の構成表)機能においては、株式に関するかなり複雑な計算をフロントエンドでリアルタイムに行い、ユーザーが情報を入力中に遅延なく結果をプレビューする機能を作りました。(※こちらのURLから試すことができます)

 エンジニアが私1人しかいない時に、この機能を数週間もかけて作りました。スタートアップで生きるか死ぬかの勝負の中、当時の時間のかけ方は破格だと思います。

 なぜこれだけ力をかけているのかというと、スタートアップの業界的に資本政策表はExcelで作られることが多く、Excelのユーザー体験に圧勝しなければいけなかったからです。

 smartroundはSaaSであるためExcelに対し、

●Excelの関数式レベルではほぼ実現不可能なロジックの計算
●ユーザフレンドリーな入力UI

という点において勝っています。

 それだけでなく、Excelに備わっている優秀な機能である

●入力をリアルタイムに結果反映する機能
●アカウントを持っていない人でも資本政策表を気軽に作成・共有できる機能

を実装することで、Excelに勝っていない点もなくし、ユーザー体験として圧勝する必要がありました。

 ロジックが非常に複雑なので技術的に考慮した点が多く、

●Typescript(Javascriptにトランスパイルできる静的型付言語)による静的型付け
●Vue.jsによるコンポーネント化およびリアクティブなデータ反映
●ドメインモデル(プログラムのクラス設計の1種)を慎重に検討した上で実装
●テストコードをがっつり書くことで計算ロジックのデグレを防止

などなど、技術力が求められる機能でした。

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