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創業エンジニアが残すスタートアップ開発ログ 第6回

株式会社ログラス 取締役CTO 坂本龍太氏

非効率な経営管理業務をGitHubのような形で改善できるSaaSができるまで

2020年07月21日 09時00分更新

文● 坂本龍太 編集●ASCII STARTUP

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 はじめまして。株式会社ログラス取締役CTOの坂本龍太(@http204)です。

起業して髭を伸ばしはじめた

 ぼくは1988年に妖怪で有名な鳥取の境港市に生まれ、大学を卒業後、エンジニアとして数々のBtoB SaaSの立ち上げに携わってきました。

 最初に入社したのは、株式会社ビズリーチ。今でこそCMでよく名前を耳にする大企業ですが、当時はまだ社員数が60名程度。6年後には社員約1500人抱える企業へと急成長を遂げますが、まさにスタートアップのタイミングでの最初の新卒社員でした。目が回るような日々のなかで、ぼくはSaaSであるATS(採用管理システム)やその事業の開発責任者を経験しました。その後、さらに技術に特化した経験を積むために株式会社サイバーエージェントに転職。そこではAIによるチャットボット事業に関わりました。

 どの職場でもチームや同僚に恵まれ、プロダクトも成長していて、エンジニアとしてのやりがいも成長も感じる日々。ただ、何か物足りない。そんなある日、「これから起業するからエンジニアを探している」と言うひとりの若者と出会いました。それが、のちに共同創業を決めることになる、布川友也だったのです。

出会って3週間で起業を決意

 出会った頃、布川は上場企業で経営企画業務をひとりで回していました。ぼくたちは渋谷の道玄坂にある店で待ち合わせて、蕎麦を食べることに。そこで布川は、自分がこれまで抱えてきた課題やビジョンを語りはじめました。

 「(布川自身も関わっている)CFO・経営企画の業務はあまりにも無駄が多すぎる」
 「数十社にヒアリングしたがほとんどの会社が同じペイン(課題)を抱えている」
 「テクノロジーの力で必ず彼らを救える。それには優秀なエンジニアが必要なんだ」

 布川は食事はそっちのけでプロダクトのモックアップ(試作品)を見せてくれました。もちろん今のLoglassとは大きく違うものでしたが、彼の細部へのこだわりがひしひしと伝わってきました。何より心惹かれたのは、彼自身が日々業務で直面している課題に対してアイディアを用いて解決しようとしている点でした。

 SaaSではPMF(プロダクトマーケットフィット)、つまりマーケットを満足させるプロダクトをつくり切ることが成功の条件であり、スタートアップが失敗する最大の原因は“NO MARKET NEED(マーケットのニーズがない)” と言われています。布川自身が顧客の課題を解像度高く理解していることは、エンジニアにとって最高のプロダクトをつくるチャンスです。

 何より、布川は新卒で投資銀行に入社したキャリアを持ちながら、起業するために自らの年収を下げてベンチャー企業に転職するという一貫した意思を持っていました。ぼくに比べれば年は若いですが、CFO・経営企画向けの日本最大級のFacebookグループを主催するなど、地道な努力を長期間続けてきた強い覚悟がある。ぼくは尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。

 それに、ぼくがエンジニアの道を選んだのは、学生時代に「いつか絶対起業したい」という思いがあったから。それを布川は思い出させてくれました。

 「布川以上の人物と起業するチャンスは人生で二度とない」。そう確信し、出会って3週間という短いスパンでともに創業することを決めました。

最小限のシステムでExcelを超えるユーザ体験を!

会社設立前の経営合宿の様子

 起業を決めたぼくたちが最初にやったことは、事業をつくる仲間を探すこと。これはビズリーチ時代に代表の南壮一郎さん(現ビジョナル株式会社代表)から何度となく聞かされていた教訓でした。頭に思いつく限りの頼れる優秀なエンジニアやデザイナーたちに、どれほど力を貸してもらったことか。彼らの協力がなければ、コーポレーション・インテリジェンス・クラウド「Loglass」ログラスは無事サービスをリリースすることが出来ませんでした(本当にありがとうございます!!)。

 仲間探しと並行して、サービスの開発も行ないます。スタートアップが成功するために重要なのは、素早くリリースしてフィードバックをもらうこと。そのためには、MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる初期の顧客を満足させ、少ないエンジニアリソースでも高速で実現可能な最小限のプロダクトの形を明確に定める必要があります。

 Loglassは「CFO・経営企画の為のSaaS」であることだけは明確に決まっていましたが、CFO・経営企画の広範な業務をどの範囲まで、どんな形でサポートするのかについては最も多くの時間を割きました。

 例えばメイン機能にはこんな候補がありました。

1.予算編成を自動で行なう(前年度データや経営戦略から自動で作成する等)
2.予実管理、分析を強力にサポートする(様々な軸で予実分析を容易に行なえる等)
3.予算編成のワークフローを管理できる(予算の編成において発生する事業部との煩雑なやり取りをシステム化する等)
4.予算の変更履歴を詳細に記録できる(誰が、いつ、どの予算を更新したかを記録する等)

システム概要

 多くのBtoB SaaSのライバルはExcelで、Loglassが置き換えるのもExcelやスプレッドシートで行なわれている業務です。なかでもExcel業務に非常に長けているCFO・経営企画の方を満足させるには、どの機能をメインで開発しても、膨大な時間と人員が必要になる。プロダクトのリリースすら行なえないまま消えていくスタートアップもあると言うプレッシャーのなかで、CTOとしてどうすれば価値のあるサービスがつくれるのか、日々模索していました。

 まず行なったのは、上場企業へのさらなるヒアリング。ユーザーストーリーマッピングなどの手法を用いながら、プロダクトのモックアップをデザインツール等で作成した上で、100社以上に訪問して生の声を集めました。

 すると、「各事業部や子会社との予算編成のワークフローに課題がある」と言う声がもっとも多く、大企業こそ顕著でした。そのデータをもとに、Excelやスプレッドシートでは実現できない機能であり、かつ、比較的短期に作れる可能性が高い前述の3・4番目の機能をMVPのメインにすることに決めました。

 こうして、2019年9月より本格的に開発を始め、2020年4月、8ヵ月という極めて短期間でクローズドリリースを行なうことが出来ました。

 ここで、初期にメインに据えた機能を一部紹介します。

スプレッドシートにて予算データを更新する

 Loglassに事業部長が予算や見込を提出・更新する場合、一度自身の事業部の予算データと実績データをExcelまたはスプレッドシートで取得します。そして、事業部長は計算式やベタ打ちなど、自由に値を変更し、Loglassに提出します。すると、CFO・経営企画は、どの値が誰によって、どの程度変更されたのかをブラウザー上で簡単に確認できるという仕組みです。また、提出数値の根拠となっているExcelやスプレッドシートはLoglassにそのまま保管されているため、いつでも基になるロジックまで確認することができるのもポイントです。

提出された予算データの変更差分を確認する画面

 提出された数値を変更したい場合は、CFO・経営企画の承認がなければ予算本体には反映されないため、勝手に数値が変更されてしまうような今までの問題は解決されます。また、この提出履歴はずっと残るので、過去の変更内容などを無数に増えるExcelのバージョンに残していくような業務も不要になる。

 ぼくたちは、こうした非効率が残る経営管理業務を、エンジニアの世界では当たり前の、GitHubにおけるプルリクエスト(コードの変更をレビュワーに通知し、レビューの後に変更の反映を依頼する機能)のような形で改善できることも強みにしていて、特許も申請中です。

 エンジニアとして強くこだわったのは、現在の予算数値、変更後の予算数値と両者の差分、さらに最終利益への影響を即座に算定できるデータの設計と、CFO・経営企画にとってレビューしやすい画面デザインです。

 他にも多くの機能がありますが、MVPの時点ではなるべく少ない開発工数で大きな変化を体現できるように意識しました。

 すでにクローズドリリースよりおよそ3ヵ月が経過しましたが、上場企業を中心に10社以上に導入いただいており、非常に良いフィードバックをもらっています。初期リリースとしては、まさかのコロナ禍において想定以上の成果。ほっと胸をなで下ろしました。

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