このページの本文へ

業務改善に効く最新ビジネスクラウド活用術 第25回

Slack Japanに聞いたビジネスチャットの3つのメリット

Slackだけ見れば仕事ができるという世界観を目指したい

2018年11月05日 10時00分更新

文● 柳谷智宣

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 ここまで連載の3回で「Slack」の活用法を紹介してきた。今回は4回目ということで、Slack Japanの溝口宗太郎氏、越野昌平氏にSlackについていろいろとお話を伺ってみた。Slack創業の経緯、なぜSlackを選ぶべきなのか、テック系企業から一般企業へと進む導入の現状などを聞くことができた。

Slack Japan シニア テクノロジー ストラテジスト 溝口 宗太郎氏

2度の失敗を経て、急成長の波に乗ったSlackの創業者

 超有名な「Slack」だが、実はサービスインしてから5年しか経っていない。未上場ではあるものの、ソフトバンクのビジョン・ファンドをはじめとする多額の投資を受けている。社員数はグローバルで1300人を超えており、本社はサンフランシスコのダウンタウンにあり、ロンドン、ダブリン、メルボルン、ニューヨーク、トロント、バンクーバー、東京に支社を展開。日本法人は2017年9月に設立され、現在の社員数は14名。ちなみに今回お話しを聞いた溝口氏は10番目に入社したそう。現CEOのスチュワート・バターフィールドは共同創設者でもある。そんなスチュワート氏の経歴が面白い。

「実は、ステュワートはこれまで2回失敗しています。1回目はLudicorp社を立ち上げて、MMO(大規模多人数参加型オンラインゲーム)を開発していたのですが、失敗しました。しかし、そこでプレイヤーがスクリーンショットを共有してコミュニケーションできるサービスを作ったんです。それを切り出して、世の中に出したのが「Flickr」です。米Yahoo!に買収されたお金で、2回目はTiny Speck社を作り、「Glitch」というブラウザーで動作するMMOを出したのですが、こちらも失敗しました。このとき、社内の開発メンバーでコミュニケーションしてプロジェクトを進めるために使っていたツールがSlackなんです」と溝口氏。

 Slackは、当初シリコンバレー界隈のスタートアップ企業でコラボレーションツールとして広まり、最近はその枠を超えて全世界で伸びているとのこと。

コミュニケーションツール乱立時代のSlackの3つのポイント

 企業ではさまざまなコミュニケーションツールが使われている。メールやSkype、MessengerやTwitter DMなど乱立しており、AさんとBさんはメールで話し、BさんとCさんはスカイプで話していると、AさんとCさんをつなぐときに伝言ゲームが起きてしまったり、情報共有に時間がかかったりする。情報流通の部分で、発生している無駄な時間とお金を何とかしようとしているのがSlackだという。

多様化・複雑化するコミュニケーションにより非効率な伝言ゲームが発生している

 Slackを使うことによる大きなメリットが3つあると溝口氏は語る。1つ目が、Slackはチャットベースのカジュアルなコミュニケーションなので、メールのような余分な作法が不要という点。タイムラインで会話に参加している全員が、誰が何を発信しているのか、それに対して誰がどうリアクションしているのかが可視化されているので、高速な情報共有が可能になる。SlackアプリはPCやスマホ、タブレットなどマルチプラットフォームに対応しており、時間と場所にとらわれずに働けるというのもポイントだ。

 2つ目は、オープンなコミュニケーションを構築できる点。Slackには、全員が参加できるパブリックチャンネルと招待された人しか入れないプライベートチャンネル、ダイレクトチャットという3種類のコミュニケーション方法がある。通常は、該当する担当者が参加するプライベートチャンネルが乱立しそうなものだが、それはSlackが目指すところではないそうだ。

「われわれはなるべくパブリックチャンネルで会話するスタイルを重視しています。個人情報や機密情報はプライベートチャンネルを使わなければいけませんが、それ以外はオープンにしようという考えです。全体の6割くらいがパブリックチャンネルで会話されていると理想の状態だと思います」(溝口氏)

 さらに、パブリックチャンネルで自分のしていることを発信することにも意味があるという。たとえば、マーケティング担当は同じ組織の中でもKPIが異なることが多い。しかし、メディアやイベント、ソーシャル、デジタルとそれぞれの担当者が別の方向を見ていると、せっかくいいタレントが集まっても組織として力を発揮できない。そこで、Slackで情報を共有し、自分が何をやっているのかをアピールすることで、みんなが同じ方向を向くことができるとのことだ。

 大きな会社だと事業部ごとの縦割り制度で、横の連携ができないと嘆いている人も多いだろう。これはコミュニケーションが閉鎖的に行なわれているため。Slackでオープンにすることで、見に行かなければいけない情報が増えるが、見に行くかどうかはユーザーが決められる。特に理由もなくCCに追加され、一方的に送られてくるメールとは違うという。

「別の事業部の人が何をやっているのかを見られるようになると、普段会社の中で会わない人たちが交わるようになります。新しい交流が生まれ、化学反応が起きることで、新しいアイデアやプロジェクトが生まれたりするのです。さらに、経営層と現場の距離が近くなるので、従業員のエンゲージメントも高まります。Slackでは、CEOや役員を含めてみんながSlackを使っており、普通のチャンネルで対等に話をしています」(溝口氏)

 3つ目は、オフィス内で多彩なクラウドサービスのプラットフォームとして活用できるということ。

「Slackは単なるチャットツールではありません。われわれはオフィスの中でのプラットフォームになりたいと思っています。世の中にあるたくさんのクラウドサービスと連携し、それらの通知を全部Slackに集約することで、Slackだけ見れば仕事ができるという世界観を目指しています」(溝口氏)

 連携するサービスはなんと1500以上。さらに、SlackのAPIやSDKに加え、サンプルコードやユースケースも広く公開している。具体的な活用法は「第3回 Slackアプリからさまざまなクラウドサービスを連携させる」を参照して欲しい。

連携サービスは1500以上

 クラウドストレージの「Googleドライブ」や名刺管理アプリ「Eight」、社内Wiki「Guru」などがよく利用されているそう。取材時には、「Meetingbot」と「Googleカレンダー」を連携し、チャットをしながら複数メンバーが参加する会議室の予約をSlack上で行なうデモを見せてもらった。ブラウザで該当サービスを表示してログインし、そのサービスのUIで予約操作を行なうのと比べて、格段に簡単に処理できるのが大きなメリットだ。

 さらには、外部のセンサーと連動させ、会議室の酸素濃度をSlackに流しているユーザー企業まであるそう。この多彩な連携機能がSlackのキモと言える。ビジネスチャットに加えて、あらゆるクラウドサービスの起点として活用できるというわけだ。

すでに半数以上が非テック系企業 現場からのボトムアップが多い

 幅広く利用できるSlackはこの5年間で急成長を果たしている。当初の顧客はテック企業が多かったが、現在では半数以上が非テック企業になっている。もちろん、SAPやオラクルのようなIT企業もいるが、スターバックスやLVMHなどもユーザー企業として名を連ねている。NASAのような国家機密の塊を扱う部署にも導入されているのがすごい。日本では、セブン銀行、日経新聞、パナソニック、JT、DNA、dmm、メルカリといったそうそうたる顔ぶれがSlackを利用している。

 すごいサービスだから大手がこぞって殺到した、わけではなく、実はボトムアップで導入が進むことも多いそう。

「SlackはIT部門が使い始めるというのは少数です。むしろ、現場の人たちが勝手に使い始めることが多いです。われわれは“野良Slack”と呼んでいますが、その野良Slackが社内を侵食し始めるんです。そのうち、IT部門が気がついたときには社内の大半がSlackを使っている状況になっているのです。人によっては複数の部署でSlackを利用していて、二重課金が発生していることもありました。それはまずかろうと、一括契約するというケースがあるのです」(越野氏)

Slack Japan アカウントエグゼクティブ 越野昌平氏

 現在、日本では「働き方改革」が流行っているが、言っている割には海外と比べてICT投資は少ないし、導入しても利用率は高くない。実際に1629社にヒアリングしたところ、Slackを活用すればミーティングが減って生産性が上がったという声が集まったとのこと。

 「Slackのモットーは「Work Hard and Go Home!」です。ミーティングは情報共有ではなくディスカッションだったり、何かを決めるために使うべきだと考えています。勤務時間中は本気で働いて早く帰れ、ということですね。最近では、日報や週報ではなく、分報を出すのが流行っていますね。Slackで分報というチャンネルを作り、そこで自分がなにをやっているのかをひたすらつぶやくのです。上司が部下を管理するために見ることもできますし、同僚が見て仕事のアドバイスをしたりしています」(溝口氏)

 現在、SlackのDAU(一日あたりのアクティブユーザー数)は800万人を超え、その3割が有償契約をしている。会社が展開しているのは5か国で、言語も5つしか対応していないが、世界100か国に展開している。日本のDAUも日本語版が出る前でも33万人、現在は50万人以上となっている。Slackは無料でも利用できるので、登録アカウント数を発表する方が格段に大きな数字になるはずなのに、珍しくDAUを公表している。これは、「チャットサービスでは、DAUが大事だと思っています。コミュニケーションツールなので、毎日使われなければ意味がないからです」(溝口氏)という考え方によるものだ。

DAUは800万を超え、そのうち3割が有償契約

 Slackは熱烈なファンが多く、勝手にコミュニティを作って情報を共有したり、詳細な活用ブログも数え切れないくらい存在する。ユーザーがユーザーを呼び、今後日本でも導入企業が増えていくことは間違いない。Slackに興味がある人は、まずは無料プランで試してはどうだろうか。直感的に使えるUIなので、気軽に試せる。良さそうなら野良Slackの構築からの、部門導入、ひいては全社導入まで実現して欲しい。

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事