Slack誕生の背景とコンセプト、変わらない「2つのコアアイデア」、日本ユーザーの特徴まで
「Slackは分断化するチームをつなぎなおす」Slack共同創設者/CTOに聞く
2020年03月02日 08時00分更新
世界で1200万人超が利用するビジネスコラボレーションハブ「Slack」。チームコミュニケーションを促進するツールとして、日本国内でも業種を問わず徐々に浸透しつつある。
Slack共同創設者の一人でありCTOを務めるカル・ヘンダーソン氏は、現在の業務環境は「チームの分断化」を招いており、Slackはそれをつなぎなおすと説明する。あらためてヘンダーソン氏に、Slack誕生の背景からキーコンセプト、中小企業から大企業までが共通して抱える課題などについて聞いた(取材日:2020年1月)。
Slack誕生のきっかけは「あらゆる情報を一カ所にまとめたい」
――カルさんはSlackの共同創設者でありCTOです。まずは、Slackが誕生したきっかけについて簡単に教えていただけますか。
ヘンダーソン氏:われわれが起業したのは2009年のことだ。当初はビデオゲームの開発会社としてスタートしたが、残念ながらゲームの事業はあまりうまくいかず、その事業は4年ほどでクローズすることになった。
ただし、その4年間でひとつ得られたものがあった。チーム内のコミュニケーションを助け、改善するためのツールを開発していたんだ。これが現在のSlackの原型となっている。
われわれの開発チームは当時、サンフランシスコ、バンクーバー(カナダ)、ニューヨークを拠点に仕事をしていた。たとえ拠点が分散していても、チーム一丸となって働きたい。そのためにはコミュニケーションのツールが重要だ。そう考えて、完全に自分たちのためのツールとして開発を始めた。
ゲーム事業をたたむ際に、次はどんな事業をすべきかを話し合ったのだが、そこで「このツールはほかの会社でも便利に使えるのでは?」と気づいた。そこからSlackのビジネスがスタートしたんだ。
――しかし、当時はすでにほかのコミュニケーションツールもあったはずです。それまでのツールでは何が足りなかったのでしょうか。
ヘンダーソン氏:われわれも創業当初はほかのツール、具体的には「IRC(Internet Relay Chat)」を使っていた。しかし、いくつかの点で機能不足だと感じていた。
まず、モバイルの機能がなかったこと。すでにスマートフォンが台頭し始めていた時期で、モバイルでも使えるツールが欲しかった。それから、テクニカルな知識がない人でも使いやすいツールが欲しかった。ゲーム開発のチームには、開発者だけでなくアニメーターやサウンドデザイナーなどもいるからね。
それから、これはもっと重要なことなのだが、われわれはコミュニケーションツールを通じて「メッセージのやり取り」だけをしたいわけではなかった。もっと「仕事に関わるあらゆる情報」を一カ所にまとめられるようなツールが欲しかったんだ。
たとえばゲーム開発チームであれば、まずイラストレーターが新しいゲームキャラクターをデザインしてツールにアップする。それを見たアニメーターが、キャラクターにアニメーションを付けてアップする。最後に責任者が確認して(承認の)ボタンをクリックすれば、すぐさまゲームにゴーライブ(反映)される――。われわれが必要としていたのはそんなツールだった。
業務ツールの多様化で「分断化」したチームを統合するSlack
――なるほど、Slackは最初から「単なるチャットツール以上のもの」を目指していたわけですね。
ヘンダーソン氏:そのとおりだ。そして、Slackの基本コンセプトは今でも変わっていない。コア(核心)となるアイデアとしては「チャンネル」と「プラットフォーム」がある。
チャンネルは、組織内のコミュニケーションを「整理」するための仕組みだ。何らかのプロジェクトやトピック、チームごとに、それぞれコミュニケーションの場を用意できる。それまでの電子メールは個人を重視したコミュニケーションツールだったが、Slackは「チーム」でのコミュニケーションを重視している。
チャンネルの仕組みは、電子メールのインボックスよりも優れた点がある。たとえば「これまでの履歴(ログ)」が共有できる点だ。
あるプロジェクトに途中から参加する人がいたとしよう。プロジェクト内のやり取りがメールで行われていた場合、途中参加した人はこれまでの議論や成果物などの情報が入手できない。しかしSlackであれば、チャンネルのログをさかのぼったり、検索したりすることで、過去の情報にもアクセスすることができる。
ほかのメンバーと同じ情報にアクセスできるというのは大きなメリットだ。メールだとメンバーごとに視点が分断されるおそれがあるが、Slackのチャンネルならば、チームとして視点を「共有」できる。チームの方向性について、個々人で考えがズレることも減らせる。
――もうひとつの「プラットフォーム」とはどんなアイデアでしょうか。
ヘンダーソン氏:まず、仕事で使われるツールが非常に多様化している現状を指摘しておきたい。20年前の企業は1つか2つのツールを導入すればよかったが、現在はそれが100にも1000にも増えている。
現在のこうしたツールの多様化によって、仕事は「分断化」していると思う。社員それぞれが自分好みの、異なるツールを使うことで、個人レベルでの生産性は高まるかもしれない。しかしその一方で、成果物は分散してしまう。多くのタスクを集約し、チームで仕事を進める場合には、この問題が顕著に表れてくる。
この分断化したチームを、コミュニケーションを通じて統合できるのがSlackの価値だ。ここで大切なのは、Slackは他のツールを置き換えるわけではないことだ。それぞれのツールが持つ強みはそのまま生かしつつ、最終的なチームとしての生産性も高める。それがプラットフォームとしてのSlackという考え方だ。
――個々のユーザーが好んで使うツールも尊重することで、「個々人の生産性向上」と「チームとしての生産性向上」の2つを両立させている、と。
ヘンダーソン氏:そのとおりだ。プラットフォーム化を実現するために、Slackは当初から外部アプリケーションとの連携機能を重要視してきた。現在は2000以上のアプリケーションとの連携機能を備えており、さらに顧客企業独自のカスタムアプリと連携させる開発もできる。
