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腎臓病の新薬開発が熱い。次の標的は「失われたポドサイト」

特集
未来を変える科学技術を追え!大学発の地味推しテック

猫の腎臓病治療薬が話題だけど、人間も5人に1人がCKD

 「猫は腎臓病になりやすい」という話を聞いたことがあるかもしれない。高齢になると慢性腎臓病を発症する猫は多く、長年、猫の寿命を縮める大きな病気のひとつとされてきた。

 そんななか、最近猫好きの間で話題になっているのが「AIM」だ。AIMは血液中に存在するタンパク質で、AIM医学研究所の宮崎徹所長らが、このタンパク質を利用した猫の腎臓病治療薬を研究している。2025年5月には全国26の動物病院で治験が始まり、2026年には進行した慢性腎臓病の猫にAIMを投与した研究結果も発表されている。

 腎臓病は、もちろん猫だけの問題ではない。厚生労働省によると、日本では成人のおよそ5人に1人が慢性腎臓病(CKD)と推計されている。腎臓は血液から老廃物や余分な水分を取り除くフィルターの役割を担っているが、CKDではその機能が徐々に低下していく。初期には自覚症状が出にくく、進行すると透析や腎移植が必要になることもある。

進行を遅らせるだけじゃない。腎臓病の新薬が相次ぐ

 これまでCKD治療では、血圧や血糖値を管理しながら、腎臓への負担を減らして進行を遅らせることが中心だったが、 最近はその状況が変わってきている。

 製薬業界では、腎疾患をめぐる動きが活発になっている。ノバルティス、アストラゼネカ、大塚製薬、ノボ ノルディスクといった世界的大手が、腎疾患の新薬開発を強化。近年は、腎疾患の治療薬を持つバイオベンチャーの買収や共同開発に、1000億円を超える規模の契約も相次いでいる。長らく治療の選択肢が限られてきた腎疾患が、創薬の重要なテーマになりつつある。

 代表例が、もともと糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬だ。腎臓への負担を減らす効果が確認され、現在では糖尿病の有無にかかわらず、一定のCKD患者に使われるようになった。国際的なCKD診療ガイドラインでも、腎機能低下や心血管疾患のリスクを減らす薬として位置付けられている。

 国の指定難病で、腎臓の糸球体に炎症を起こすIgA腎症でも、新薬が相次いでいる。米国では2025年にシベプレンリマブ、2026年7月にはアタシセプトが承認された。どちらもIgA腎症に関わる免疫反応を標的とする薬だ。腎臓への負担を抑えるだけでなく、病気の仕組みに直接働きかける治療が増えている。

Kanjinが狙うのは、失われた「ポドサイト」の回復

 そこに新しいアプローチで参入しているのが岡山大学の創薬スタートアップ、Kanjin Therapeuticsだ。同社は岡山大学発の研究成果をもとに、肝臓と腎臓の間で働くシグナルに着目した核酸医薬を開発している。ターゲットは、腎臓の糸球体にある「ポドサイト」(足細胞)と呼ばれる細胞だ。

 糸球体とは、血液をろ過して尿をつくる小さなフィルターである。その表面を覆うポドサイトは、タコ足のような細かな突起構造を持ち、血液中のタンパク質などが尿に漏れ出すのを防ぐ役割を担っている。ところが、腎臓病によってポドサイトが傷つき、数が減っていくと、糸球体のろ過機能も低下していく。

 Kanjinは、FSGS(巣状分節性糸球体硬化症)や糖尿病性腎症などを対象に、ポドサイトに働きかける核酸医薬を開発している。

KJ Target阻害によるポドサイトの再生・構造回復。病変により崩壊した構造(中央)が、標的遺伝子を阻害することで本来の足突起構造(右)へと再生されていることがわかる

 SGLT2阻害薬が腎臓への負担を減らして機能低下を抑え、IgA腎症薬が病気に関わる免疫反応を標的とするのに対し、Kanjinはポドサイト数の回復を通じて、糸球体の構造や腎機能そのものの改善を目指している。

 Kanjinの核酸医薬は現在、非臨床開発の段階だ。それでも腎臓病治療には、進行を遅らせるだけでなく、病気の原因に働きかけて食い止める、傷んだ腎機能の回復を目指す、といった新しい選択肢が加わり始めている。

 ちなみに、冒頭で紹介した猫のAIMも、将来的には人向けの医薬品開発が検討されている。猫の腎臓病の特効薬が、いずれ人間の治療にもつながるかもしれない。

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