金より高かったフェルメールの青。今度は青色顔料が白金を置き換える
フェルメールの青から、浮世絵の青へ
大阪中之島美術館で開催中の「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」が注目を集めている。フェルメールといえば、鮮やかな「フェルメール・ブルー」が有名で、《真珠の耳飾りの少女》にもラピスラズリからつくられた顔料のウルトラマリンが使われている。素材として希少だった17世紀当時は、金よりも高価だったと言われている。
18世紀初頭には、ドイツで鉄を含む合成顔料「プルシアンブルー」が発明された。日本では「ベロ藍」と呼ばれ、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵にも広く使われるようになった。高価な天然顔料に代わり、合成顔料が鮮やかな青の表現を広げていったのだ。
青色顔料の分子で、白金触媒を置き換える
現代では、青色顔料の分子が別の高価な材料を置き換えようとしている。東北大学発スタートアップのAZUL Energy株式会社が開発する「AZUL触媒」は、青色顔料の一種である鉄アザフタロシアニンを使った、レアメタルフリーの酸素還元触媒だ。燃料電池や空気電池の正極で酸素の反応を促し、白金などの高価な触媒を置き換えることを目指している。
燃料電池は、水素と空気中の酸素を反応させて電気をつくり、発電時に二酸化炭素を排出しない。この反応を効率よく進めるために使われているのが白金触媒だ。白金は高価で産出地域も限られるため、燃料電池のコストや量産を左右する材料のひとつになっている。
空気電池は、亜鉛やマグネシウムなどの金属と、空気中の酸素を反応させて発電する。電池内部に酸素を蓄える必要がないため、大容量化しやすい。ここでも酸素の反応を促す触媒が必要で、AZUL触媒を使えば白金などのレアメタルに頼らない空気電池をつくれる。
高温で焼かず、常温の工程で製造
白金を別の材料に置き換える技術は世界中で研究されている。従来のカーボンアロイ触媒では、触媒として働く構造をつくるために高温での焼成が必要になる。製造設備やエネルギー消費が量産時の課題となっていた。
AZUL触媒は、触媒として働く分子をあらかじめ設計し、カーボン材料の表面に分子レベルで吸着させて製造する。高温で焼成する工程がなく、常温のウェットプロセスでつくれるため、既存の化学プラントを使った量産にもつなげやすい。同社によると、白金触媒と比べてコストを約90%、製造時の二酸化炭素排出量を99%以上削減できるという。
触媒の試薬販売から、空気電池の製品化へ
AZUL Energyは2026年7月、大学や企業の研究機関向けに、AZUL触媒の試薬販売を開始した。さらに、AZUL触媒を使った亜鉛空気電池「Ferion」を2026年秋に発売する予定だ。Ferionは空気中の酸素を使って発電し、小型でも長く使えるのが特徴だ。電気柵での長期運用を検証しているほか、照明やIoT機器のメーカーとも連携を進めている。
絵画の色だった青が、まさか電気を生み出す材料になるとは。エジソンもびっくりだ。
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