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量子コンピューターもまだなのに、もう中継器? コピーできない通信を遠くへ運ぶ方法

特集
未来を変える科学技術を追え!大学発の地味推しテック

量子インターネットの部品が、もう出荷されている

 量子コンピューターは、ニュースではたまに見るものの、実用化はまだ当分先の話だと思っていた。ところが、その量子コンピューターなどをつなぐ「量子インターネット」に向けて、専用の中継器に使う部品が出荷されている。

 レーザーや光学部品を開発するオキサイドは2026年7月、横浜国立大学発スタートアップのLQUOM株式会社に量子中継器向けのレーザーを出荷した。波長436nm帯のレーザーで、量子中継器に組み込む量子メモリを動かすための光をつくるという。

 量子コンピューターもまだなのに、もうインターネットの中継器を作るなんて、気が早いようにも思える。だが、量子インターネットの場合、中継器は後から追加する周辺機器ではない。遠く離れた場所まで量子通信を届けるために、最初から解決しなければならない難題なのだ。

量子の情報は、こっそりコピーできない

 現在のデジタルデータは、同じ内容を簡単にコピーできる。通信の途中で複製されても元のデータは変わらないため、盗まれた側が気づきにくい。

 量子通信が安全性の高い通信として期待される理由のひとつは、 この点が大きく異なるからだ。光子などがもつ量子の状態を第三者が途中で測定すると、その状態に変化が起こる。また、未知の量子状態をまったく同じ形で複製することもできない。通信中の変化を調べることで、盗聴の可能性を検知できる。

 よく「量子通信は盗聴されない」と説明されるが、より正確には、盗み見ようとした痕跡を検知できる仕組みをもつ通信といえる。

コピーできないから、普通の中継器が使えない

 ところが、この「途中で読み取り、同じものをコピーできない」という性質は、通信距離を延ばす際には弱点になる。

 現在の光通信でも、光ファイバーを進む信号は距離とともに弱くなる。そこで通信経路の途中に中継器を置き、弱くなった信号を読み取って増幅し、再び送り出している。

 量子通信では、この方法が使えない。量子の状態を途中で測定すると状態が変わり、その情報を読み取って複製することもできないからだ。

量子をコピーせずに中継する仕組み

 そこで必要になるのが、量子通信専用の「量子中継器」だ。量子中継器は、届いた量子情報を読み取って複製する装置ではない。通信経路を短い区間に分け、それぞれの区間で「量子もつれ」と呼ばれる量子同士の強い相関をつくる。さらに、「量子もつれ交換」という仕組みで隣り合う区間を順番につなぎ、離れた地点の間で量子もつれを共有できる距離を延ばしていく。

量子中継の仕組み

 将来の量子中継器の実現には、量子もつれを生み出す光源、量子の状態を一時的に保持する量子メモリ、光の波長変換、レーザーの周波数を安定させる技術などが必要になる。LQUOMは、これらの要素技術を組み合わせ、ひとつの量子通信システムとして動かすための開発を進めている。

 同社は2024年、量子中継システム向けの共振器内蔵型量子もつれ光源「LQ-PS-100」を実験用に製品化した。実際の商用光ファイバーを使ったソフトバンクとの伝送実験のほか、複数の量子コンピューターの接続を目指す7者共同研究東芝との長距離量子鍵配送の研究など、企業や大学との連携も進めている。

共振器内蔵型量子光源「LQ-PS-100」

 今回オキサイドから出荷されたレーザーも、こうした中継器を構成する部品のひとつだ。量子メモリでは、狙った波長の光を高い精度で安定して発生させる必要がある。出荷されたレーザーは、量子メモリで使う光波長をつくるためのものだ。

量子コンピューター同士がつながる未来

 量子インターネットの用途として想定されるのが、金融、行政など高い安全性が求められる通信だ。量子中継器が実用化されれば、量子通信を都市内などの限られた範囲から、より広域へ延ばせる可能性がある。

 さらに将来は、離れた場所にある量子コンピューターや量子センサーをネットワークで接続することも考えられている。複数の量子コンピューターを連携させ、材料開発や創薬などの計算に使う構想だ。

 量子インターネットは、まだずっと先の話だと思っていた。だが今回のレーザー出荷を見ると、その実現に向けた準備は、少しずつ具体化しているようだ。

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