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培養皿で眼の構造を育てる。角膜再生を目指す大阪大学発「SEAM法」とは

特集
未来を変える科学技術を追え!大学発の地味推しテック

レーシックからICL。眼の治療はだいぶ進化していた

 視力の低下が気になる今日この頃である。筆者は20年ほど前にレーシックを受け、一度は眼鏡のない生活を手に入れた。ところが最近は、小さな文字にピントが合いづらい。仕事ではパソコン、休憩中はスマートフォン、帰宅後は動画と、一日中スクリーンを見ているので、目の先行きがどうにも心配になってくる。

 このまま老眼が進み、いずれ白内障になったらどうなるのか。調べてみると、眼の治療は20年前よりかなり進んでいた。白内障では、濁った水晶体を取り除き、人工の眼内レンズに置き換えられる技術がある。近視の矯正でも、角膜を削るレーシックに代わり、眼内にレンズを入れるICLが主流になっているらしい。

レンズ交換では治せない角膜の病気

 視力が落ちても回復できそうで少し安心したが、レンズの交換やピントの調整では治療できない眼の病気がある。眼の表面を覆う角膜上皮と、それを生み出す幹細胞自体が失われる疾患だ。

 角膜上皮は、通常なら黒目と白目の境界付近にある幹細胞から新しい細胞が供給され、傷ついても修復される。ところが、けがや病気などによって幹細胞が失われる「角膜上皮幹細胞疲弊症」になると、角膜上皮を正常に維持できなくなり、濁りや視力低下を引き起こす。重症例では角膜移植などが行われるが、ドナー不足や拒絶反応といった課題が残る。

培養皿の中で眼の発生過程を再現するSEAM法

 そこで期待されているのが、iPS細胞を使った再生医療だ。大阪大学発の株式会社レイメイは、iPS細胞から眼を構成する細胞をつくる「SEAM法」を使い、角膜上皮の再生を目指している。SEAM法は、iPS細胞を角膜の細胞だけに変化させるのではなく、眼がつくられる過程に似た環境を培養皿の中で再現するのが特徴だ。

  iPS細胞を一定の条件で培養すると、細胞が自ら並び始め、同心円状の四つの領域をつくる。そこには、網膜、水晶体、角膜上皮など、眼を構成するさまざまな細胞につながる細胞群が現れる。この構造が「SEAM」(Self-formed Ectodermal Autonomous Multi-zone)だ。直訳すると「自己形成された外胚葉性の自律的多領域」。要するに、iPS細胞が自ら複数の領域に分かれ、眼の組織へ育っていく土台をつくっていくわけだ。

 レイメイは、その中から角膜上皮になる細胞を選び出し、さらに培養してシート状に育てる。完成した細胞シートを患者の眼の表面に移植し、角膜上皮を再生させる仕組みだ。

iPS細胞の角膜シートを企業治験へ

 大阪大学では、iPS細胞由来の角膜上皮細胞シートを患者に移植する臨床研究が行っており、レイメイはその研究成果を引き継ぎ、再生医療等製品「REM-01」として実用化を進めている。

 REM-01は、患者本人ではなく、あらかじめ用意した他人のiPS細胞からつくる「他家」の角膜上皮細胞シートだ。患者ごとに細胞を採取して製造する必要がないため、品質をそろえた細胞シートを計画的に生産し、必要な医療機関へ届けられる可能性がある。

ヒトiPS細胞を用いた角膜上皮再生治療法の開発(他家移植)

 レイメイは2026年2月、角膜上皮幹細胞疲弊症の患者を対象とする企業治験を開始した。大阪大学医学部附属病院など6施設で計12例を予定し、REM-01を移植した際の安全性と有効性を評価する。治験の完了は2027年12月を予定しており、その後、製造販売承認を申請する計画だ。

 同社はロート製薬株式会社とも連携し、他家iPS細胞からつくった角膜上皮細胞シートを安定して製造・供給する体制を整える想定だ。研究室で生まれた技術を、実際の治療として患者に届ける準備も進み始めた。

 20年前、レーシックで視力が戻ったときも、かなり未来的な治療だと思った。現在は、ICLで眼内に新しいレンズを入れられる。そして将来は、眼の表面をつくる細胞そのものを再生する治療が生まれるのだろうか。

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