血液1滴で、すい臓がんのサインを読む。東大発コウソミルの1分子計測技術
健康診断で血を2本取られた。そんなに必要なの?
先日、健康診断の採血で「いつもより時間がかかるな」と思ったら、2本取られていた。検査に必要なのはわかるし、体に影響はないと言われても、気持ち的には複雑だ。
できることなら採血量は少ないほうがいい。指先にぷくっと出る1滴程度なら怖くないし、検査へのハードルも下がるはずだ。その「少ない血液で、どこまで体の状態を読み取れるか」に挑んでいるのが、東大発バイオスタートアップのコウソミル株式会社である。
コウソミルが見るのは、血液中のごく小さなサイン
同社の強みは「1分子計測リキッドバイオプシー」と呼ばれる独自技術だ。リキッドバイオプシーとは、血液などの体液を使って病気のサインを探る検査手法のこと。その中でも、血液中のごく微小な変化を1分子レベルの感度で捉えようとしている。
血液の中には、病気に関係する変化がごく小さなサインとして混ざっている。問題は、そのサインをどこまで細かく読み取れるかだ。一般的な血液検査では、血液中に含まれる成分の量や濃度を測る。例えば、肝機能や腎機能、血糖値、脂質などの数値を見て、体の状態を把握する。
一方、コウソミルが注目するのは、血液中の「酵素」の働きである。病気になると、体内の酵素の働き方に変化が出ることがある。同社の技術は、酵素がどれだけあるかだけでなく、実際にどう働いているか、つまりタンパク質の機能に注目する。
従来の血液検査が「血液中の成分を見る」ものだとすれば、コウソミルの技術は「血液中の酵素の動きを見る」ことで、疾患に関係する微小なサインを拾いにいくアプローチなのだ。
見つけにくいすい臓がんを、早い段階で拾うために
コウソミルがまず注力しているのが、すい臓がんの検査だ。すい臓がんは早期に特徴的な症状が出にくく、進行してから発見されることが多い。だからこそ、体内の小さな異変をできるだけ早く捉える検査が重要になる。
同社は2025年7月から検査サービス「エンゼバーすい臓がん」の受注を開始している。少量の血液からすい臓がんに関係する可能性のある微小なサインを調べる、早期発見を目的とした研究用検査だ。Stage I〜IIの早期がんに対する検出力も報告されており、実用化に向けた研究が進んでいる(参照)。
遺伝子検査や唾液検査とは、見ているものが違う
最近は、自宅で検体を採取して送るだけの検査サービスも増えている。遺伝子検査、唾液検査、尿検査など、手軽に利用できる検査は体への負担が少なく、健康状態に目を向けるきっかけになる。
ただし、何を調べているかによって意味は大きく異なる。遺伝子検査は生まれ持った体質や将来的なリスク、つまり「なりやすさ」を知るためのもの。唾液や尿を使う検査は、成分やバイオマーカーを調べることで体調の変化や疾患リスクに気づくきっかけになる。
これに対しコウソミルの技術は、血液中の酵素の働きを高感度に測ることで、体内で起きている疾患に関係する変化を捉えようとするものだ。手軽さよりも、少ない検体から微小なサインを読み取る精度に主眼がある。
検査サービスから本格的な医療検査へ進むための壁
とはいえ、検査サービスとして始めることと、医療現場で広く使われる検査として定着することの間には大きな距離がある。「エンゼバーすい臓がん」もこの検査単独でがんを確定できるものではなく、あくまで研究目的の検査業務だ。結果は医師の診察や画像検査など、ほかの検査と合わせて総合的に判断される。
それでも、検査の負担が小さくなることには意味がある。病院に行く、採血を受ける、結果を待つ。その一つひとつが少し軽くなれば、検査を受けるハードルも下がる。
少ない血液から、体の中で起きている変化をどこまで読み取れるのか。コウソミルの取り組みは、そんな問いへの挑戦でもある。個人的にはまず、次の健康診断で取られる血の量が少しでも減ってくれたらうれしい。
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