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満足度2割の絶望から逆転。歩行モビリティの課題解決から広がる独自市場を開拓するAshirase

10月から一般販売がスタートする視覚障害者向けの歩行支援デバイス「あしらせ」

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2024年10月から一般販売スタート。信頼をベースに市場創出に挑む

 2024年後半、いよいよ本格的な勝負の時期を迎える。「あしらせ」の一般販売は10月から始まる。価格は5万4000円で、厚生労働省が定めた身体障害者用物品の条件を満たしており非課税となっている。基本利用料金は月額550円で、ナビゲーション機能のほか、マイルートや新たにAI機能(おすすめ検索、画像認識)が利用できる。

探したい場所を音声入力すると条件に該当するおすすめ施設の情報を案内する「AIおすすめスポット検索」や、写真で撮影したものを説明する「AI画像認識」機能など、順次新しい機能が追加される予定だ

「靴に入れるパッド部分は、株主となってもらった株式会社アシックスにもノウハウを聞きながら、壊れにくく、履き心地も良い物を目指した。靴に取り付けるデバイス部分は、デザインも新しくサイズを少し小さくして、女性の靴にも馴染むものにしている。ソフトウェアに関してもできる修正は全部やった」(千野氏)

 製品強化とともに、視覚障害者向け機器の販売店、家電量販店の一部での販売も順次開始されるという。家電量販店は補聴器などを販売した経験があり、説明などをしながら販売するノウハウを持った店舗が手を挙げた。

「本格的な販売が始まることで、これまで『あしらせ』を使っていたお客様とは異なる層のお客様が商品を手に取る可能性は十分にある。そこでどんな評価が下されるのか、怖いことも確かだが、販売店の皆さんにとっても、新しい商材としてビジネスの可能性がある、視覚障害者の皆さんにとっても買い物をする場が広がったと感じてもらう機会となればと考えている」

 厳しい声を受け、これまで以上に製品のアップデートが必要となる可能性も十分にある。それに対しても、「クレーム云々ではなく、ソフトウェアのアップデートは終わることなく続いていくことになる。社内では、『朝令暮改じゃなくて、朝令朝改だ!』と言っている。やらないといけないことに早急に取り組んでいこうと掛け声をかけている」と前向きに捉えている。

小型化やユニセックスなデザインの変更も加えられた

 顧客ニーズを聞き、前向きに改善する姿勢は、新たに社外から取締役兼COOに就任したメンバーの影響も大きいという。

「(同取締役が)ヘルスケアビジネスのスタートアップ時代の経験から、PSF(プロブレム・ソリューション・フィット)が重要だと社内でアピールした。課題があり、それを解決するソリューションがあればマーケットは後からついてくるのがPSF。ところが、実際にはPSFを考えず、マーケットフィットもしていないのに物だけ作って失敗した例が結構ある。

 特にスタートアップの場合、先に契約が取れてしまったから、マーケットがないのに物だけ作ってしまって、その後は物が売れなくて、動けなくなってしまう状況は少なくない。我々も、いま一度原点に立ち返り、使う方が抱える課題や声にしっかりと向き合っていかなくてはいけないと気持ちを新たにした。製品の増産も大切だが、『本当にお客様に向き合えているのか』を考えた。今回の一般販売も、本来は1年前に実施したかったが、その前にしっかりとPSFを考えるために立ち止まることができたのは、結果的によかった」

 顧客の声に耳を傾け製品強化を続けてきた結果、現在は日本だけでなく、海外マーケットへの進出の可能性も見えてきた。福祉に手厚い欧州で「あしらせ」を評価してもらったところ、「ぜひ、使ってみたい」という声があがっており、すでに特許出願も欧州では進められている。

 視覚障害者向けの市場は日本だけではない。徹底した課題解決へ注力した結果、今回のデバイス発売から、「あしらせ」への信頼度がどのように変わっていくのか。また、その信頼性をベースにした次の展開についても千野氏は想定している。そこには、同社でしか持ち得ない歩行自体のルーティング技術の提供であったり、視覚障害者の別の課題を解消するための新たなサービスもあるという。

 日本発で世界に向け、既存マーケットに飛び込むのではなく、自分たちで新たなマーケットをここから作れるのか、期待したい。

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