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Honda発スタートアップ「Ashirase」の事例からわかったカーブアウトの強み

第16回JOICセミナー「事業会社からの事業切出し手法『カーブアウト』のメリットと可能性を知る」レポート

特集
JOIC:オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

 2022年8月9日、JOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)事務局は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同で、第16回JOICセミナー「事業会社からの事業切出し手法『カーブアウト』のメリットと可能性を知る」を神奈川県川崎市のK-NICで開催した。セミナーでは、カーブアウトを活用したHonda発の第1号スタートアップである株式会社Ashirase代表取締役の千野 歩氏と同社にシードラウンドで投資したリアルテックファンドのグロース・マネージャー木下 太郎氏によるパネルディスカッションと、ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社の山本 洋介氏による講演が行なわれた。

 カーブアウトとは、事業会社からの事業切り出し手法のひとつで、事業会社が戦略的に自社の事業の一部を切り出し、新会社と独立させること。カーブアウトされた新企業は、母体会社からの出資を受けつつも外部からも出資を受けることが可能で、人材や技術などの経営資源の取り入れや外部の製品を扱える。また事業を切り出すことで、母体会社は既存事業に注力でき、新企業も自社の意思決定で柔軟な事業展開ができ、双方にメリットがある。

 経済産業省では、国内カーブアウトの事例から、母体会社、スタートアップ、VCやCVCのそれぞれの立場からの課題とベストプラクティスをまとめた調査報告書「イノベーション創出を目指した事業会社からの事業切出し手法(カーブアウト)に関する調査」をウェブサイトで公開しているで興味のある方はこちらを参照していただきたい。(関連リンク

オープニングでは、経済産業省産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 専門職の齊藤 直樹氏がカーブアウトの概要を説明。

Hondaのカーブアウト第1号Ashiraseはどうやって生まれたのか

 パネルディスカッションには株式会社Ashirase 代表取締役の千野 歩氏と、リアルテックホールディングス株式会社 木下 太郎氏が登壇し、実際にカーブアウトを活用した千野氏の実体験から、創業までの経緯、HondaやVCとの関係について語った。

株式会社Ashirase 千野 歩氏。2008年本田技術研究所にて電気自動車や自動運転の研究開発に従事。2018年SensinGood Labという任意団体を設立し、「あしらせ」の開発を開始。2021年4月、Ashiraseを創業、代表取締役に就任。

 株式会社Ashiraseは、Hondaからのカーブアウトで2021年に創業し、視覚障がい者向けの歩行ナビゲーションシステム「あしらせ」を開発している。「あしらせ」は、靴の中に装着し、足の甲への振動によって誘導情報を伝えるナビゲーションシステムだ。視覚障がい者は、わずかな視覚と音、杖や足の裏の感覚で周囲の安全確認をしながら歩行しており、ルート確認に意識が集中すると安全確認がおろそかになり、事故につながりやすい。こうした課題を解決するため、直感的にルート情報がわかるナビゲーションツールとして靴に取り付ける振動インターフェースを開発。進行方向の誘導情報を振動パターンによって足の甲に伝えることで、聴覚や視覚、手や足の裏の感覚を邪魔せずに、直感的なナビゲーションが可能だ。

 同社はHondaの新規事業創出プログラム「IGNITION」から生まれた第1号のスタートアップだ。IGNITIONは、社内の新規事業創出を目的に2017年に研究所内でスタートし、2020年からは起業を前提としたプログラムとして全社展開している。

 IGNITIONでは、審査段階からVCが参画し、事業育成フェーズにおいてもVCなどの投資家と連携して出資や支援をするのが特徴だ。また、スタートアップ企業として育成後は、事業継続、Hondaにスピンイン(M&A)の2つの道筋を選べるようになっている。

リアルテックホールディングス株式会社 木下 太郎氏。東京農工大学大学院修士課程(応用化学専攻)を修了。大手素材メーカーを経て、2017年にリアルテックファンドに参画。超聴診器を開発するAMI、次世代X線センサを開発するANSeeN、風況観測技術を持つメトロウェザー等スタートアップをシードステージから伴走し、社会実装に向けて活動中。2022年より株式会社Ashiraseの監査役に就任。

 千野氏が「あしらせ」を開発したのは、目の不自由な親族の事故がきっかけだそう。視覚障がい者の歩行の課題を解決するため、個人の活動として「あしらせ」の開発を進め、社会実装するためにIGNITIONに応募したのが始まりだ。最初は研究所内での提案としてIGNITIONに応募したが採用されず。その後、カーブアウトプログラムが始まる際に声をかけられ、再挑戦することになったという。

 IGNITIONプログラムの最終関門の前から木下氏が参画し、法人設立に向けて事業計画をいっしょにつくっていったそう。千野氏は当時を振り返り、「想定していた以上に事業を作るのは難しく、自力では資本政策も十分に考えられていないことがプログラムを通じてわかりました。木下さんと一緒に伴走して基礎から学んでいけたのは大きかったですね」とコメント。

 当時はIGNITIONプログラムが始まったばかりでHonda側の株式比率なども決まっておらず、木下氏を交えて調整していったそうだ。

 プログラムの調整に関わった木下氏は、「カーブアウトでは、一般的に母体会社との距離が近すぎることが課題となることが多い。その点、Honda側にカーブアウトするスタートアップは独立企業として尊重するというマインドセットがもともとあったので助かりました。」とコメント。

 千野氏は、「出る側の人間だけが一生懸命やってもダメ。事務局だけが一生懸命やっていてもダメ。お互いの熱量と方向性がうまく合っていたのが成功の要因だと思います」と分析した。

「IGNITIONには、多数のシーズがエントリーされている。その中で千野氏がカーブアウトできた理由は?」という質問には、 「どんなに優れた技術や研究テーマであっても、誰がどのように推し進めるかにかかっています。事業化には、社内にも社外にも高い壁があるので、簡単にあきらめないでいることが重要です」と千野氏。

 木下氏は、VC視点からのカーブアウトのメリットとデメリットとして、「カーブアウトはもともと事業が存在する中で切り出されるので、事業会社の中でしっかり開発を行ない事業進捗していることが強み。反面、子会社視点になりがちです。母体企業に心が寄っていると、私達はいっしょにやろうという目線になれないので、いかに切り分けるかが大事な視点です。Ashiraseさんは、もしカーブアウトできなくてもHondaをやめて起業する覚悟を感じたからこそ、私達も本気で取り組むことができました」と語った。

素材化学産業における、カーブアウトによる新事業創出

 セミナー後半は、ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社 取締役パートナー山本 洋介氏による講話を実施。

ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社 取締役パートナー山本 洋介氏

 ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター(以下、UMI)は、素材、化学分野特化型のVCとして、約100億円規模の2つのファンドを運営し、約30社の投資先を支援。2022年内に200億円規模を目指す3号ファンドを立ち上げる予定だ。

 最初に素材化学産業の課題を説明。素材化学産業は、世界的に成長性と収益性が高く、日本においてもGDPの3分の1を占める基幹産業となっている。しかし、日系企業はグローバル企業に比べて収益性や時価総額が低く、その要因として、事業ポートフォリオの転換がうまく進んでいないことが挙げられる。ポートフォリオ転換の成長手法としては、短中期的にはM&A、中長期的にはR&Dの2つがあるが、日本は海外に比べてM&A件数が少なく、金額規模も小さい。またR&D効率も低い。R&D効率の低さは、開発技術の収益化がうまくいないことが一因だ。そこで、技術シーズを最大限収益化するための方法として、カーブアウトの活用が推進されている。

 素材化学産業の新事業の研究開発から量産化まで数十年と長い期間がかかる。UMIでは、アーリー、ミドルステージのベンチャーに対して集中投資し、製品開発やスケールアップにかかる適切なリスクマネーの供給と徹底したハンズオン経営支援を実施している。

 UMIが支援したカーブアウト事例として、株式会社micro-AMS(JSR株式会社によるカーブアウト)、つばめBHB株式会社(味の素株式会社によるカーブアウト)を紹介。

 ベンチャー企業の成長には、1)経営戦略、2)ガバナンス体制、3)資本政策――の3要素を整合して進める必要がある。UMIは、これらの3要素へ付加価値を提供することでイノベーションによる事業創造へとつなげるように取り組んでいる。

 VCを活用するメリットは、自社単独では躊躇するような資金供給を実現できる点だ。イノベーション創出手段としてのカーブアウト、ベンチャーキャピタルの活用は有用であり、今後さまざまな成功事例が生まれる期待される。一方で、安易に取り組むとうまくいかないので、目的をしっかり定義し、経営戦略の一環としてカーブアウトを活用するといいと説明した。

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