メルマガはこちらから

PAGE
TOP

日本の原子力研究が産んだスタートアップ。新たなレアメタル回収技術で世界のリサイクルが変わる

独自技術でレアメタル回収システムの確立を目指す エマルションフローテクノロジーズ

連載
ASCII STARTUP 今週のイチオシ!

1 2 3

株式会社エマルションフローテクノロジーズ 代表取締役社長/CEO 鈴木裕士氏(左)
株式会社エマルションフローテクノロジーズ 取締役/CTO 長縄弘親氏(右)

スタートアップ起ち上げにあたり、社会課題解決はいまや起業の重要な要素といわれている。株式会社エマルションフローテクノロジーズが挑むのは、使用済みのリチウムイオン電池などからレアメタルを取り出すというビジネスだ。ただし、既存とは異なる「エマルションフロー」という高効率、低コストで環境にやさしい技術を使った新手法だ。CEOである鈴木裕士氏、CTOである長縄弘親氏は日本原子力研究開発機構で研究者として働いていた。事業の核である「エマルションフロー」も、原子力研究の中から生まれたものだ。日本の原子力研究から生まれたスタートアップの軌跡を聞いた。

「安い・簡単・コンパクト」なレアメタル回収システム作り

 2023年10月、茨城県那珂郡東海村にできた建物がエマルションフローテクノロジーズの新社屋である。スタートアップが1棟丸ごとの拠点を持つことは珍しいが、中を見れば納得できる。玄関から二階のオフィス部分に入るまでは普通のオフィスのようだが、窓から階下を見下ろすと、そこにあるのは巨大な実験室というのか、工場のような器具が並んだ空間が広がっている。オフィス部分とは全く異なるこのスペースがわざわざ新社屋を作った狙いである。

新社屋に開設された実験スペース(画像提供:エマルションフローテクノロジーズ)

「拠点を作らなければならなかった要因の一つが、比較的大型の機材を扱うことがあったため。さらに、溶媒には引火性が高いものも多く、化学物質、化学薬品も使うことがあるとなると、どこかを借りるのでは限界がある。開発を進める際、利用している施設の環境でやることに限界が来てしまっては困る。ならばどうすべきか、と考えていた時に、パイロットプラントを作る必要があるという話も出た。諸々の課題をどう解決するべきかを考えていくうちに、それでは自分たちの拠点を作ってしまおうということになった」(鈴木氏)

代表取締役社長/CEO 鈴木裕士氏

 同社は、社名になっている「エマルションフロー」という溶媒抽出技術を使い、レアメタルを回収する技術開発を進めている。使用後の携帯電話やパソコン、リチウムイオン電池などに使われている「レアメタル」を取り出すことで、海外からの輸出に頼っているレアメタル獲得を、「都市鉱山」ともいわれる廃棄物から得ようとする試みだ。都市鉱山は宝の山だという話はあちこちで耳にするが、「エマルションフロー」という技術を使うことで、従来よりも低コスト、高効率かつ高純度にレアメタル回収を目指しているのがエマルションフローテクノロジーズである。

「目指すのは、『安い、簡単、コンパクト』なレアメタル回収システム。確立すれば、誰でもレアメタルを回収できるリサイクル事業が展開できる。例えば、レアメタルを搭載した製品を生産している工場内に回収施設を作れば、回収と生産を一貫して行う施設へと転換可能となる。社会的要請で環境に配慮した生産設備、資源を守ることが求められているような事業者さんにとって、価値がある仕組みになる」

 このようなディープテックスタートアップの研究開発は長い時間がかかるものだが、その完成は「ずばり2026年」だと鈴木氏は主張した。

「我々の仕組みが利用されるようになれば、現在は端材回収にとどまっているリサイクル事業は、本来的な意味でのリサイクル事業へと転換できる。電子機器廃棄物などを回収したはいいものの、リサイクルが行われていないゴミの山が宝の山に変わる。そのためにビジネス化する開発を現在進めている」と事業化推進を見定めている。

1 2 3

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー